深謀渦巻く北朝鮮中枢人事の「躍進」「失脚」「牽制」

執筆者:平井久志 2012年4月20日
エリア: アジア
4月15日、金日成主席誕生100周年の閲兵式に出席した金正恩労働党第1書記 (C)EPA=時事
4月15日、金日成主席誕生100周年の閲兵式に出席した金正恩労働党第1書記 (C)EPA=時事

 北朝鮮は4月11日、第4回党代表者会を開催し、党規約を改正、故金正日(キム・ジョンイル)総書記を「永遠の党総書記」に奉じ、後継者の金正恩(キム・ジョンウン)氏を「党第1書記」に推戴した。また、同13日に最高人民会議第12期第5回会議を開催し、憲法を改正、故金正日総書記を「永遠の国防委員長」に奉じ、金正恩氏は「国防委第1委員長」に推戴した。北朝鮮の金正日氏から金正恩氏への権力継承は金正日氏の死後約4カ月というハイスピードで達成され、金日成(キム・イルソン)主席、金正日総書記、金正恩第1書記という世界でも例を見ない3代にわたる世襲による権力継承が実現した。  一方、国際社会がミサイル発射と反発した北朝鮮の主張する「光明星3号」は4月13日に発射されたが、ロケット1段目の噴射段階もしくは第2・第3段ロケットとの分離段階で事故が発生、「光明星3号」を軌道に乗せることに失敗した。金日成主席誕生100周年への贈り物であり金正日総書記の遺訓貫徹でもあり、金正恩新時代のスタートへの「祝砲」でもあった「光明星3号」の打ち上げ失敗は、金正恩時代のスタートに冷水を浴びせた。北朝鮮は異例の対応を見せて「軌道に乗せることに成功せず失敗した」と人工衛星打ち上げ失敗を認めた。  これに対し、国連安全保障理事会は4月16日午前(日本時間同日深夜)、北朝鮮が人工衛星発射と主張する長距離弾道ミサイル発射を「強く非難」する議長声明を中国を含む全会一致で採択した。北朝鮮外務省は同17日夜声明を発表し、議長声明を激しく非難し「2.29朝米合意にわれわれもこれ以上拘束されないであろう」と2月29日に発表された米朝合意破棄の姿勢を明確にした。  北朝鮮の権力世襲は完成したが、指導部の再編が行なわれ、北朝鮮指導部に興味深い変化が生まれている。その中で、北朝鮮をめぐる国際情勢は2009年4月のミサイル発射の状況に戻った。米朝は3年をかけて2月29日に「ウラン濃縮の暫定停止」などを含む合意に達したが、米朝関係は振り出しに戻った。北朝鮮が09年のように核実験を強行するのかどうか、金正恩後継体制は内部的な問題を抱えながら対外的にも重大な岐路に立っている。

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執筆者プロフィール
平井久志(ひらいひさし) ジャーナリスト。1952年香川県生れ。75年早稲田大学法学部卒業、共同通信社に入社。外信部、ソウル支局長、北京特派員、編集委員兼論説委員などを経て2012年3月に定年退社。現在、共同通信客員論説委員。2002年、瀋陽事件報道で新聞協会賞受賞。同年、瀋陽事件や北朝鮮経済改革などの朝鮮問題報道でボーン・上田賞受賞。 著書に『ソウル打令―反日と嫌韓の谷間で―』『日韓子育て戦争―「虹」と「星」が架ける橋―』(共に徳間書店)、『コリア打令―あまりにダイナミックな韓国人の現住所―』(ビジネス社)、『なぜ北朝鮮は孤立するのか 金正日 破局へ向かう「先軍体制」』(新潮選書)『北朝鮮の指導体制と後継 金正日から金正恩へ』(岩波現代文庫)など。
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