「高負担国家」へと突き進む民主党の社会保障政策

磯山友幸
執筆者:磯山友幸 2012年5月9日
エリア: 日本
自民党と民主党の違いを問われて出てきた言葉は……(c)時事
自民党と民主党の違いを問われて出てきた言葉は……(c)時事

 民主党が政権を奪取して最も実現したかった事は何だったのだろうか。「脱官僚依存」「コンクリートから人へ」といった政権交代の原動力になったキャッチフレーズは早々に姿を消した。「高速道路無料化」「子ども手当」といったマニフェスト(政権公約)の柱も次々と腰折れしている。そして「政権担当中にはやらない」と明言してきたはずの「消費税増税」が最大の焦点になっている。 「政権交代に期待したのに何も変わらない」――。  参議院の予算委員会で、そんな厳しい声を野田佳彦首相にぶつけたのは野党議員ではなく、首相を支えるはずの民主党議員だった。「自民党の政治、政権交代後の民主党の政治、いったい何が違うのか」。そう問い質したのである。

社会保障費「2200億円削減」を反故に

 これに野田佳彦首相はどう答えたか。
 首相は大きく変わったことの代表的な例として2つを挙げた。ひとつは、自民党政権時代にいわゆる「三位一体の改革」で減らしていた「地方交付税交付金」を大幅に増やした点。もうひとつが社会保障だった。
「2200億円を毎年削る方向だったものを立て直して、介護難民とか医療崩壊と言われたものに歯止めをかけた」と大見得を切ったのである。
 2200億円の削減とは、自民党政権時代の2006年に社会保障費の自然増分7700億円のうち、2200億円を削減すると決めたことを指す。2200億円削減と言うと、あたかもそれまで使われていた社会保障費にメスを入れたように思われるが、実際には自然増加分を抑制することを決めたのに過ぎない。ところが、医師会や厚労族議員が猛反発。「医療崩壊」が繰り返し喧伝されることとなった。それでも族議員の反対を押し切る格好で、自民党政権時代の予算編成では2200億円圧縮が続けられた。
 これを反故にしたのが民主党政権だった。それは数字にはっきりと表れている。医療行為や薬剤への支払いの基準となる「診療報酬」は2年ごとに改定されるが、2002年から2008年まではマイナスが続いた。これが民主党政権下ではプラスに転じる。2010年0.19%、2012年0.004%といった具合だ。実際には薬価は下げられており、いわゆる本体部分でみれば1.55%、1.379%のプラスだった。
 2012年の改定では、政府の行政刷新会議が行なった「政策仕分け」で報酬の引き下げを提言し、財務省も大幅引き下げを求めていた中でのプラス改定だった。日本医師会などの圧力を受けて民主党が引き上げを最終決定した。
 診療報酬を改定すれば、当然、医療費は増える。2008年に34.1兆円だった医療費は09年35.3兆円、2010年は36.6兆円と過去最高となった。
 2011年度の予算ベースで見ると、医療費の33.6兆円に加えて、年金で53.6兆円、介護や福祉といったその他で20.6兆円の合計107.8兆円がわが国の社会保障の全体の給付費だ。この社会保障給付費は毎年1兆円ペースで増え続けているのだ。家計のやり繰りをする主婦ならずとも、まずはこの支出の増加を何としてでも抑えるのが先決だ、と考えるのが普通の感覚だろう。ところが、抑制を止めたのが政権交代の成果だと野田首相は言い切ったのだ。当然、そのツケは国民に回ってくる。

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執筆者プロフィール
磯山友幸
磯山友幸 1962年生れ。早稲田大学政治経済学部卒。87年日本経済新聞社に入社し、大阪証券部、東京証券部、「日経ビジネス」などで記者。その後、チューリヒ支局長、フランクフルト支局長、東京証券部次長、「日経ビジネス」副編集長、編集委員などを務める。現在はフリーの経済ジャーナリスト。著書に『国際会計基準戦争 完結編』、『ブランド王国スイスの秘密』(以上、日経BP社)、共著に『株主の反乱』(日本経済新聞社)、編著書に『ビジネス弁護士大全』(日経BP社)などがある。
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