経済の頭で考えたこと
経済の頭で考えたこと(49)

オランドは公約を破らざるを得ない

田中直毅
執筆者:田中直毅 2012年5月14日
エリア: ヨーロッパ

 緊縮財政を批判し、成長政策こそが採用されるべきだと主張したオランドが仏大統領に選ばれたとき、ギリシャでは選挙では何事も決められないという混乱した投票結果が現出していた。欧州の歴史の舞台には次々と準主役級が登場するだけでなく、シナリオが用を成さなくなり、舞台の上で役者同士がアドリブで繋ぐような展開が不可避となりつつある。

ドイツによる簿外保証

 欧州経済の今後を占う上で、緊縮政策の実施を強く主張してきたドイツが主役であることは間違いない。昨年の段階で、ドイツはフランスを含めたユーロ圏の全構成国に対して包括的・実質的な融資を決定し、ユーロ圏維持のための保証の傘を提示した。ドイツ連邦政府による簿外保証を、ブンデスバンクの貸借対照表(バランスシート)を使って行なったのだ。ドイツは第2次大戦後の歴史の全体を秤(はかり)にかけるようにして、ユーロ危機に対応してきている。このことのゆえに、ユーロ加盟各国に対して緊縮予算の編成を強いる財政協定の締結と批准とを求めることができるという構図が生まれたのだ。
 ドイツの中央銀行であるブンデスバンクは、第2次大戦後に魔法の四角形を生み出すことに寄与した。成長、雇用、物価、経常収支の4要素の間には、微妙なバランスがあることは誰にもわかる。高い成長率、安定した雇用、低い物価上昇率、経常収支の均衡が同時に達成できたとすれば、それはまさしく優等生のはずだ。西ドイツは1960年代のエアハルト首相の時代からこの魔法の四角形を実現したが、背景にはマルクの価値維持に貢献したブンデスバンクの厳格な運営原則があったとドイツ人は思ってきた。この揺らぐことのなかったブンデスバンクを歴史の脇役に降ろした上で作り上げたのがECB(欧州中銀)である。
 ところが歴史の舞台から楽屋にまで静かに退いたはずのブンデスバンクがバランスシートを実質上膨張させたのだ。ECBへの請求権という形で、連邦政府の年間歳出予算を大きく上回る額を計上したのが2011年だった。ECBのバランスシートでみれば、負債の部にドイツからの受け入れ金額が計上される。他方資産の部にはユーロ圏の金融機関に対する長期融資が積み上がる。これでユーロ圏の民間銀行は流動性不足の懸念を当面は払拭させることができた。
 

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執筆者プロフィール
田中直毅
田中直毅 国際公共政策研究センター理事長。1945年生れ。国民経済研究協会主任研究員を経て、84年より本格的に評論活動を始める。専門は国際政治・経済。2007年4月から現職。政府審議会委員を多数歴任。著書に『最後の十年 日本経済の構想』(日本経済新聞社)、『マネーが止まった』(講談社)などがある。
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