「賈慶林のタイ訪問」と「インラック首相のプレム議長邸訪問」

執筆者:樋泉克夫 2012年5月11日
エリア: アジア

 最大野党の民主党、国民的敬愛を集めるシリントーン王女、そしてインラック首相と訪中が続き、タイと中国の接近の度合いは、より高いレベルに達しつつある。

 日本・メコン地域諸国首脳会議に出席するためにインラック首相が北京経由で東京入りした4月20日、中国共産党No.4で中国全国政治協商会議主席を務める賈慶林は、南タイのリゾート地として知られるプーケット島に到着した。タイ上院議長からの招請を受けての1週間ほどの公式訪問をスタートさせた。

 プーケット県知事と会談の際、賈主席は「プーケット島は中タイ両国民往来の重要な拠点の1つであり、今後は中国各地と南タイとの友好合作を進めたい」と語っているが、じつは同島は、同じアンダマン海の南方に浮かぶマレーシア領ペナン島と共に、19世紀初頭以後に主としてゴム園での農作業に従事するために渡ってきた華工(=中国人労働者)が開発した島であり、現在の島の経済を支える観光業者の多くは、華工の子孫である華人が占めている。そこで恒例の「中泰一家親(中タイ両国は家族の親しみ)」の連発となるわけだ。これに対し知事は、賈主席のタイ訪問に当たり最初の訪問地として同島を選んだ「中国側の配慮」に感謝した後、中国からの投資と観光客の来訪を強く訴えた。豊富な「人民元」を呼び込んで経済を活性化しようという狙いである。

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執筆者プロフィール
樋泉克夫(ひいずみかつお) 愛知県立大学名誉教授。1947年生れ。香港中文大学新亜研究所、中央大学大学院博士課程を経て、外務省専門調査員として在タイ日本大使館勤務(83―85年、88―92年)。98年から愛知県立大学教授を務め、2011年から2017年4月まで愛知大学教授。『「死体」が語る中国文化』(新潮選書)のほか、華僑・華人論、京劇史に関する著書・論文多数。
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