急速に盛り上がる「日銀法改正」の舞台裏

磯山友幸
執筆者:磯山友幸 2012年5月31日
エリア: 日本
白川総裁のKY発言が火に油を注ぐ(c)時事
白川総裁のKY発言が火に油を注ぐ(c)時事

 日本銀行法改正の動きが急速に盛り上がっている。日本経済が長期のデフレから脱却できないのは日銀による金融緩和が不十分なためだとして、物価変動率の目標(インフレ・ターゲット)などを政府が指示できるように法改正することを狙っている。1997年に改正された現在の日銀法では政府からの強い独立性を規定しているが、これを見直そうというのである。4月上旬にみんなの党が日銀法改正案を国会に提出したほか、自民党内でも独自に改正案をまとめており、執行部の判断次第では、自民党も今国会に改正案を提出することになりそうだ。

「高橋洋一ウイルス」

「高橋洋一ウイルスの感染がどんどん広がっている」。財務省の幹部は苛立ちを隠さない。日銀法改正を仕掛けている黒幕は高橋洋一・嘉悦大学教授だというのだ。高橋氏は周知の通り、財務省出身で『さらば財務省!――官僚すべてを敵にした男の告白』などの著作で一世を風靡した。いわゆる「埋蔵金」の存在を指摘するなど、財務省からすれば手の内を知り尽くされている最も嫌な相手だ。その高橋氏が強く主張しているのがインフレ・ターゲットの導入や日銀の国債引き受けによる通貨供給量の増大だ。
 高橋氏の信条は「求められれば、どの党でも関係なく協力する」というもの。いわば、官僚としての心意気を退官後も持ち続けているのだ。
 最も早い段階から高橋氏に協力を仰いだのが、渡辺喜美・みんなの党代表。みんなの党がインフレ・ターゲット導入派の急先鋒になっているのはこのためだ。また自民党では「上げ潮派」として知られた中川秀直・元幹事長などとのパイプが太く、中川氏が幹事長を務めていた当時の安倍晋三内閣の面々から、その後も頼りにされてきた。自民党の日銀法改正案提出の動きの中心人物のひとりが安倍元首相であることも、「裏に高橋がいる」と日銀・霞が関が苛立つ理由になっている。
 また最近では、橋下徹・大阪市長までが日銀法改正を後押しする発言を始めた。実は高橋氏は大阪市特別顧問に就任しているほか、大阪維新の会が設置した「維新政治塾」の講師も務めている。つまり、日銀法改正の火の手が上がるところにはすべて高橋氏の姿があるわけで、「高橋ウイルスの感染拡大」という財務省の見立てはあながち間違っていない。
 余談ながら大阪には現在、『日本中枢の崩壊』がベストセラーになった元経済産業省官僚の古賀茂明氏や、同じく経産省OBで『官僚のレトリック』を書いた原英史氏など脱藩官僚が集結している。霞が関の現役官僚の目に、政府転覆を狙う梁山泊のように映るのは半ば当然と言えるだろう。

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執筆者プロフィール
磯山友幸
磯山友幸 1962年生れ。早稲田大学政治経済学部卒。87年日本経済新聞社に入社し、大阪証券部、東京証券部、「日経ビジネス」などで記者。その後、チューリヒ支局長、フランクフルト支局長、東京証券部次長、「日経ビジネス」副編集長、編集委員などを務める。現在はフリーの経済ジャーナリスト。著書に『国際会計基準戦争 完結編』、『ブランド王国スイスの秘密』(以上、日経BP社)、共著に『株主の反乱』(日本経済新聞社)、編著書に『ビジネス弁護士大全』(日経BP社)などがある。
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