原子力規制庁法案の審議始まる

原英史
執筆者:原英史 2012年5月31日
カテゴリ: 政治
エリア: 日本

 

 大飯の再稼働の問題が混迷を重ねているが、その根源は、規制機関の建て直しをやらずにきたことだ。信頼失墜した原子力安全・保安院と原子力安全委員会が安全性をチェックしているといっても、国民の信頼を得難いのは無理もない。まして、これら機関が「安全」と確認したのかはうやむやなまま、「政治判断」で決めようというのだから、なおさらだろう。
 
 その意味で、5月29日から国会でようやく始まった、原子力規制庁法案の審議は、重要だ。
・政府は、環境省の一部門として、「原子力規制庁」をおく法案を出しているのに対し、
・自民・公明両党は、独立した委員会として、「原子力規制委員会」を設ける対案を示している。
 
 以前に、この部屋でも指摘したが、筆者は、政府案では、単に規制機関を経済産業省から環境省に移すだけで、これまでに露呈した問題の解決にはならないのでないかと考えている。
 29日の衆議院本会議で、対案の提出者である塩崎恭久議員が、「(政府案は)本質的改革なき第二保安院づくり」と言っているが、そうなりかねない。
 
 信頼を取り戻すことのできる制度設計とすべく、国会の場で、両案について、しっかりと審議してもらいたい。
 報道によれば、民主・自民・公明の3党で、水面下での修正協議が進められているようだが、こうした議論は、“水面下”ですませるべきことでない。国民の前で討議してもらうことが大事だ。
 
 報道によれば「自公案」寄りの協議が進んでいるようだが、焦点のひとつは、緊急時の対応だ。
「緊急時に、(独立委員会のような)専門家に任せるわけにはいかない。緊急時は、政治家が対応すべきだ」という意見は強く、これを論拠に、「自公案には欠陥がある」という主張も散見する。
だが、前提が誤解されている面もあると思う。
 
 緊急時には、原子力災害対策特別措置法に基づき、総理大臣を本部長とする原子力災害対策本部が設置される。これは、政府案の「原子力規制庁」でも、自公案の「原子力規制委員会」にしても、同じことだ。たとえば、自衛隊の派遣、住民避難など、緊急時の対応は、対策本部のもとで行われる。
 
 違うのは、自公案では、原子炉の規制、つまり、専門技術的な判断の領域については、緊急時でも「原子力規制委員会」の権限であり、総理の指示は受けない、としている点だ。
 
 この点について、29日の本会議では、それぞれ以下の立場が示されている。
 
・政府側(細野環境大臣): 「今回の事故では、オンサイトからの撤退が検討された。いわば国の命運を誰に託すかということ。・・国としての危機管理上の最低限の、かつ最後の手段として(総理の指示権は)不可欠な存在」
 
・自公側(塩崎議員): 「緊急時だからといって、原子炉等規制に関し、専門家ではない原子力災害対策本部長から指示を受けることは適当ではない。これは、緊急時だからといって、医師にかわって内閣総理大臣にしてほしいと思う人がいないのと同じ」
 
 今後の委員会審議の中で、さらに議論が深められることを期待したい。
 
(原 英史)
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執筆者プロフィール
原英史
原英史 1966年東京都生れ。東京大学法学部卒、米シカゴ大学院修了。89年通商産業省(現・経済産業省)入省。大臣官房企画官、中小企業庁制度審議室長などを経て、2007年から安倍・福田内閣で行政改革・規制改革担当大臣の補佐官を務める。09年7月退職。株式会社政策工房を設立し、政策コンサルティング業を営む。大阪府・市特別顧問、国家戦略特区ワーキンググループ委員(内閣府)、社会保障審議会年金事業管理部会委員(厚生労働省)を務めるほか、NPO法人万年野党理事、「地方議会を変える国民会議」発起人など。著書に『官僚のレトリック』(2010年、新潮社)、『「規制」を変えれば電気も足りる』(2011年、小学館101新書)、『日本人を縛りつける役人の掟/岩盤規制を打ち破れ』(2014年、小学館)、『国家と官僚』(2015年、祥伝社新書)。
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