今度は法王側近逮捕「バチカン・スキャンダル」は続く

執筆者:秦野るり子 2012年6月4日
エリア: ヨーロッパ

 ここ数カ月にわたってバチカンを揺るがしている機密漏洩事件「バチリークス」が新たな展開を見せている。バチカン捜査当局が、ローマ法王ベネディクト16世に影のように寄り添ってきた執事を、法王あての親書や極秘扱いの書類を盗み出してメディアに流していたとして、窃盗容疑で逮捕したのだ。だが、この執事を事件の主犯と見る向きはほとんどない。今回の逮捕が執事を背後で操っていた者への警告に過ぎないのか、あるいは高位聖職者の逮捕につなげるための糸口なのかと、今後の進展に注目が集まっている。

「法王の家族」

逮捕された23日にも「パパモビル」に同乗していたガブリエレ氏(写真左下)(C)EPA=時事
逮捕された23日にも「パパモビル」に同乗していたガブリエレ氏(写真左下)(C)EPA=時事

 機密漏えい事件は、今年1月から始まった。漏洩された書類に書かれた内容は主に、バチカン官僚トップの座にあるタルチジオ・ベルトネ国務長官(枢機卿)の失政ぶりがわかるもので、ベルトネ長官追い落としを狙った動きであるというのが大方の見方となっている(2012年3月26日「前代未聞の機密漏洩に揺れるバチカン」参照)。  5月23日に逮捕されたのは、2006年から執事を務めるパオロ・ガブリエレ氏(46)。  執事という肩書ではあるが、バチカンの場合、法王の身の回りの世話をする付き人というのが実態だ。朝、法王の着衣を手伝い、尼僧が作った食事を食卓に並べ、法王のプライベートなミサに付き添い、信者から姿が良く見えるように改造された「パパモビル」と呼ばれる車に法王が乗り込む時はドアを開けて自らも同乗、法王に傘を差し掛けたり、ハンカチを手渡したり、といった地味な仕事をこなす。  とはいえローマ法王の居室にも日常的に出入り出来るのは、ガブリエレさんのほか、秘書を務める2人の神父と4人の尼僧の計7人だけで、「法王の家族」と呼ばれる特別な存在でもある。いかなる高位聖職者よりも、法王と過ごす時間が長いのは確かだ。また、バチカン内の法王のプライベートな生活空間への鍵を持つ数少ない人物でもある。

カテゴリ: 経済・ビジネス
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執筆者プロフィール
秦野るり子(はたのるりこ) 1957年東京生まれ。江戸川大学教授。1982年、読売新聞社入社。経済部に配属され、農水省、流通業界、通産省(現経産省)、日銀などを担当。89年に国際部へ異動。ワシントン、ジャカルタ、ローマ特派員、国際部デスクなどを経て2008年から調査研究本部主任研究員。コロンビア大学ジャーナリズム大学院客員研究員、カリフォルニア大学バークレー校ジャーナリズム大学院客員講師も務め、2016年から富山国際大学教授、2019年から現職。著書に『ローマ法王2年目の挑戦』(読売新聞社)、『バチカン』(中公新書ラクレ)、『悩めるローマ法王 フランシスコの改革』 (中公新書ラクレ)などがある。
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