饗宴外交の舞台裏 (169)

天皇陛下も出席した「英女王在位60年」午餐会の政治学

執筆者:西川恵 2012年6月6日
エリア: ヨーロッパ

 英国のエリザベス女王在位60年を祝う午餐会が5月18日、世界の君主を招いてロンドン郊外のウィンザー城で開かれた。天皇、皇后両陛下も出席したが、一見なごやかな“君主ファミリー”の集まりも国際政治や儀礼と無縁とはいかなかった。
 20世紀初頭、君主国家は約100カ国あった。しかし1世紀の間に革命や体制転換などで今は約30カ国(英女王を元首とする英連邦を除く)。このうち26人の君主と君主の代理の王族が出席した。英国との間にジブラルタル領有権問題を抱えるスペインのソフィア王妃は、直前に出席を取りやめた。
 出席した26人の君主・王族も、全員が英世論に温かく迎えられた訳ではなかった。英メディアの批判を浴びたのはバーレーンのハマド国王。昨年来、反体制派を武力で取り締まっており、英元外務次官は「国民を武力で弾圧するような君主を招くべきでない」と批判した。英外務省は「午餐会は政治的イベントではない」と弁明した。
 メディアが皮肉混じりに取り上げたのはアフリカ南部のスワジランドのムスワティ3世国王。13人いる妻のうち第3夫人を同伴した。「国民が貧しさにあえいでいるのに贅沢な暮らしをしている」と英紙は書いた。

カテゴリ: カルチャー
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執筆者プロフィール
西川恵(にしかわめぐみ) 毎日新聞客員編集委員。日本交通文化協会常任理事。1947年長崎県生れ。テヘラン、パリ、ローマの各支局長、外信部長、専門編集委員を経て、2014年から客員編集委員。2009年、フランス国家功労勲章シュヴァリエ受章。著書に『皇室はなぜ世界で尊敬されるのか』(新潮新書)、『エリゼ宮の食卓』(新潮社、サントリー学芸賞)、『ワインと外交』(新潮新書)、『饗宴外交 ワインと料理で世界はまわる』(世界文化社)、『知られざる皇室外交』(角川書店)、『国際政治のゼロ年代』(毎日新聞社)、訳書に『超大国アメリカの文化力』(岩波書店、共訳)などがある。
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