新機軸が必要な北方領土ビザなし交流

執筆者:名越健郎 2012年7月16日
エリア: ヨーロッパ

 6月末から5日間、北方領土のビザなし訪問団に参加し、国後島と択捉島を訪れた。両島訪問は3度目だが、インフラ整備が進み、4島の「ロシア化」が着実に進行しているのを実感する。今年で20年目となるビザなし交流も、ロシア側には廃止したい意向がみられ、新機軸を打ち出す必要がありそうだ。

 ロシア経済が低迷していた1990年代、島民はロシア政府の無策を厳しく非難し、日本への羨望と期待感が強かった。島を「日本化」し、返還の環境整備をするという日本側の戦略は順調に見えた。

 ところが、プーチン政権が資源価格高騰に伴う経済成長で、2007年からクリール(千島)社会経済発展計画に着手し、島をめぐる状況は一変した。同計画は2007-15年に総額179億ルーブル(約540億円)を投じて、輸送・社会インフラ整備、水産業育成、観光開発などを図るとしている。政府は5月に投資額を280億ルーブル(約840億円)に増額。計画は15年以降も延長される見通しで、ロシア側は返還を想定していないことを示唆している。

カテゴリ: 経済・ビジネス
フォーサイト最新記事のお知らせを受け取れます。
執筆者プロフィール
名越健郎(なごしけんろう) 1953年岡山県生まれ。東京外国語大学ロシア語科卒業。時事通信社に入社、外信部、バンコク支局、モスクワ支局、ワシントン支局、外信部長、編集局次長、仙台支社長を歴任。2011年、同社退社。拓殖大学海外事情研究所教授。国際教養大学特任教授を経て、2022年から拓殖大学特任教授。著書に、『秘密資金の戦後政党史』(新潮選書)、『ジョークで読む世界ウラ事情』(日経プレミアシリーズ)、『独裁者プーチン』(文春新書)など。
  • 24時間
  • 1週間
  • f
back to top