インテリジェンス・ナウ
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CIA長官が米国家情報長官に勝利した本当の理由

春名幹男
執筆者:春名幹男 2012年7月19日
カテゴリ: 国際
エリア: 北米

 中東情勢を大きく左右するエジプトの動向。焦点は、イスラム原理主義勢力「ムスリム同胞団」出身としては初めて政権に就いたモルシ新大統領が宗教色の強い政策を実行するかどうか。だから、エジプトを訪問したクリントン米国務長官は、「軍と協力して民主制への移行を」と同大統領にイスラム色の強い政治への傾斜を警告したのである。
 だが、「アラブの春」が大きく展開した昨年2月当時、ジェームズ・クラッパー国家情報長官(DNI=71=)は議会証言で「ムスリム同胞団は雑多な運動体を包括し、大体において世俗的」と恐ろしく単純な失言をして、後に訂正した。リビア情勢でも「長期的にはカダフィ勢力の方が有利」と発言していた。
 実はこんなぶざまな事態に至る舞台裏で、オバマ政権のDNIと米中央情報局(CIA)長官が激しい権力闘争を繰り広げ、その結果、CIA長官が勝利する、という劇的な局面があった。このためDNIおよびその事務局の士気が大幅に低下したとみられるのだ。

辣腕を振るおうとしたブレア氏

 CIA創設の法的根拠である「国家安全保障法」(1947年)の改正により、DNIの新設が決まったのは2004年のこと。米中枢同時多発テロを検証する独立調査委員会が、情報機関の縦割りの弊害を正すため、閣僚級の国家情報長官を置くよう提案したのがきっかけだった。
 第1の問題は、米大統領選の年にこんな重大な問題が提起されたことだ。再選をかけた当時のブッシュ大統領の対立候補、ケリー上院議員がDNIの新設を強く求め、大統領は議論を尽くさないまま立法化せざるを得なかった。
 第2の問題は、国家情報長官とCIA長官の権限が法的にも明確に区別されないまま、新制度が発足したことだ。
 09年オバマ政権最初のDNIとなったのはデニス・ブレア元海軍大将(65)。元米太平洋軍司令官で、横須賀勤務の経験もあり、日本にも知己が多い。
 他方、新CIA長官にはレオン・パネッタ元大統領首席補佐官(74)が就任した。下院議員を8期務め、行政管理予算局長などを歴任。情報機関を運営したことはないが、ワシントン政治の「練達の士」である。
 ブレア氏は16の情報機関を統合する「情報ツァー」とも呼ばれて、情報コミュニティのトップとして、辣腕を振るおうとした。
 DNIとCIA長官の激しい権力闘争の内幕がこのほど出版されたジェームズ・マン著『ジ・オバミアンズ(オバマ人脈)』などから明らかになった。マン氏はブッシュ政権内の争いを描いた『ウルカヌスの群像』で有名だ。筆者はマン氏がロサンゼルス・タイムズ記者時代だった頃からよく知っている。

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執筆者プロフィール
春名幹男
春名幹男 1946年京都市生れ。大阪外国語大学(現大阪大学)ドイツ語学科卒業。共同通信社に入社し、大阪社会部、本社外信部、ニューヨーク支局、ワシントン支局を経て93年ワシントン支局長。2004年特別編集委員。07年退社。名古屋大学大学院教授を経て、現在、早稲田大学客員教授。95年ボーン・上田記念国際記者賞、04年日本記者クラブ賞受賞。著書に『核地政学入門』(日刊工業新聞社)、『ヒバクシャ・イン・USA』(岩波新書)、『スクリュー音が消えた』(新潮社)、『秘密のファイル』(新潮文庫)、『スパイはなんでも知っている』(新潮社)などがある。
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