寛容の国に衝撃を与えた「ブルガリアの9・11」

国末憲人
執筆者:国末憲人 2012年8月6日
カテゴリ: 国際 文化・歴史
エリア: ヨーロッパ

 国連教育科学文化機関(ユネスコ)の事務局長を務めるブルガリア人女性イリナ・ボコヴァ氏は、同国南西部の田舎、イスラム教徒が多数を占める村の家系の出身である。そこで、キリスト教徒とイスラム教徒は争いもなく、何世代も一緒に過ごしてきた。「子どもの頃から私にとって、イスラム教徒は兄弟のような存在でした」。2009年に彼女が事務局長に就任した際、こう話していたのを思い出す。

 正教やカトリックの社会の中にイスラム社会が点在するバルカン半島では、ボスニア・ヘルツェゴビナやコソボの例を挙げるまでもなく、宗教の枠組みがしばしば紛争に結びついた。その中で、ブルガリアでは8割あまりのブルガリア正教徒と1割あまりのイスラム教徒が穏やかな共存関係を維持してきた。それが、ブルガリアの大きな誇りであり、イスラエルとアラブ世界双方に対するバランスの取れた外交政策にもつながっていた。

 それだけに、7月18に東部ブルガスで少なくとも6人の犠牲者を出したテロの衝撃は、事件から2週間を過ぎても冷めていない。標的となったのがイスラエル人の団体であり、自爆テロと見られることから、イスラム過激派の関与が濃厚だ。日本ではさほど大きく報道されなかったが、ブルガリア国内は「ここ20年で最大の出来事」「ブルガリアの9・11」(地元紙)と受け止めている。

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執筆者プロフィール
国末憲人
国末憲人 1963年生れ。85年大阪大学卒。87年パリ第2大学新聞研究所を中退し朝日新聞社に入社。富山、徳島、大阪、広島勤務を経て2001-04年パリ支局員。外報部次長の後、07-10年パリ支局長を務め、GLOBE副編集長、本紙論説委員のあと、現在はGLOBE編集長。著書に『自爆テロリストの正体』(新潮新書)、『サルコジ―マーケティングで政治を変えた大統領―』(新潮選書)、『ポピュリズムに蝕まれるフランス』『イラク戦争の深淵』(いずれも草思社)、『ポピュリズム化する世界』(ダイヤモンド社)、共著書に『テロリストの軌跡―モハメド・アタを追う―』(草思社)などがある。
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