エジプトのムルスィー大統領が果断な決定で軍政を終結させる

池内恵
執筆者:池内恵 2012年8月13日

 8月12日、エジプトのムルスィー大統領が大きな動きに出た。6月末まで暫定統治を行い、ムルスィー大統領就任以後も留任してきた軍最高幹部を実質上更迭したのである。

 まったく予想されていなかった動きだが、この日の決定で、国防大臣・軍最高評議会(SCAF)議長のタンターウィー陸軍元帥と、アナーン参謀総長を即日で退役させた。そして、6月17日に出された憲法宣言追加条項を廃止すると決めた。さらに、ムバーラク政権に批判的だった著名な判事を副大統領に任命し、ムバーラク政権による政治任命でバランスを失った司法への梃入れにも着手している。

 憲法宣言追加条項とは、6月17日に大統領選挙の投票が終了した直後にSCAFが発出したもので、新大統領の就任後もSCAFに軍事・立法上の大幅な権限を残す、民主化を阻害するものだった。

 これを廃止することにより、形式的にはSCAFの権限と機能は通常の純軍事的なものに戻る。昨年2月11日のムバーラク辞任の前日にムバーラク抜きで招集されたSCAFが行ってきた軍政が終了することになる。

 また、暫定統治の頂点にいたタンターウィーとアナーンを退任させたことで、実際に大統領が軍高官の任免権を持つことを示した。二人だけでなく、海軍・空軍・防空軍の司令官もそろって退役させている。鮮やかな動きである。

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執筆者プロフィール
池内恵
池内恵 東京大学先端科学技術研究センター准教授。1973年生れ。東京大学大学院総合文化研究科地域文化研究専攻博士課程単位取得退学。日本貿易振興機構アジア経済研究所研究員、国際日本文化研究センター准教授を経て、2008年10月より現職。著書に『現代アラブの社会思想』(講談社現代新書、2002年大佛次郎論壇賞)、『イスラーム世界の論じ方』(中央公論新社、2009年サントリー学芸賞)、『イスラーム国の衝撃』(文春新書)、本誌連載をまとめた『中東 危機の震源を読む』などがある。個人ブログ「中東・イスラーム学の風姿花伝」(http://ikeuchisatoshi.com/)。
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