見えてきた「習近平時代の中国」(中)第6世代のリーダー候補たち

執筆者:藤田洋毅 2012年8月17日
タグ: 習近平 中国 香港
エリア: アジア

「汪洋さん、上京するたびに胡さんと会います。地方のトップとして、胡さんと面会する回数はダントツ」と、「海里」政策研究畑の有力幹部は明言した。「全党のトップとして、胡は軽々しいことは言えないし、指令できない。ましてや大胆に実験するのは不可能。でも胡は、鄧小平がお墨付きを与えた第4世代のトップとして、鄧の改革精神を継承し大胆に実践していると訴えなければならない。汪洋は胡の意を汲み、実は胡が試してみたい政策を広東省で実験しているのです」。

課題山積の広東省

「海里」理論畑の幹部も頷いた。「今日の広東は、明日の上海、明後日の武漢、明々後日のウルムチ」――意味するところは、こうだ。広東省は最も早く1979年から改革・開放路線の先陣を切り、「常に、輝かしい中国の発展の排頭兵(先頭)を務めてきた」。だからこそ同時に、広東省は沿海部と山間部、都市住民と出稼ぎの農民工の貧富の格差や、環境汚染・幹部の腐敗なども、一貫して全国の先頭を走る。しかも産業構造は、相変わらず農民工を主軸とする低廉な労働力が頼りの製造業が中心で、輸出依存型の低価格商品・低付加価値製品に終始する。国際経済や人口動態という基本的な構造変化だけ考慮しても、今のスタイルが持続不可能なのは一目瞭然。極めつけは、権利意識に目覚めて立ち上がった「公民」の成熟だ。
 昨年9月、広東省陸豊市の烏坎村で、現地の幹部が農地などの使用権を勝手に次々と不動産開発業者に売却していたことが発覚、上級機関への陳情と抗議を繰り返した住民と当局が対立し公安部隊とも衝突、住民リーダーの1人が死亡するなどエスカレートした。中国全土どこにでもある、独裁権力を振りかざして横暴を尽くす欲ボケした幹部と市民の対立構図だが、烏坎の住民は巧みな情報発信や世論の支持取り付けなど、新たな公民の姿を浮かび上がらせた。瞬く間にネット世論が盛り上がり、法治や市民権を訴える弁護士や学者は手弁当で住民支援に駆けつけ、住民が暴走しそうになると「理性・冷静」を訴えて抑え、海外や香港のマスコミも詳しく報道した。
 昨年暮れ、ついに省指導部は現地幹部を更迭するとともに、住民の要求をのみ直接選挙で新しい村民委主任(村長)ら村幹部を選ぶと決定。3月、「秘密投票」の風景などは外国報道陣にも公開され、抗議運動リーダーが主任に当選した。改革派は「烏坎モデル」と賞賛、政治改革の第一歩として全国へ広めようと訴えている。

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