“アジア経済の新星”ミャンマーの可能性と課題(下)

執筆者:深沢淳一 2012年9月3日
日本が開発する予定のティラワ経済特区の開発候補地(上)とヤンゴンの街並み[日本貿易振興機構提供](c)時事
日本が開発する予定のティラワ経済特区の開発候補地(上)とヤンゴンの街並み[日本貿易振興機構提供](c)時事

 労働集約型の産業に依存する国にとっては、ミャンマーは新たなライバルだ。カンボジアのフン・セン首相は、テイン・セイン大統領とクリントン長官が会談した夜に同じホテルで開かれた米国と東南アジア諸国連合(ASEAN)のビジネス関係者による夕食会でスピーチし、アジア太平洋経済協力会議(APEC)の加盟国・地域を対象にしている環太平洋経済連携協定(TPP)の交渉参加条件に関して、「APECメンバー以外も参加できるよう希望する」と、クリントン長官にカンボジアの交渉入りを認めるよう唐突に求めた。  カンボジアには中国や韓国などの衣料品メーカーの工場が数多く進出しており、米国はその衣類や繊維製品を中心に輸入する最大の輸出相手国だ。ただ、今後は人件費がカンボジアより安いミャンマーに衣料品メーカーなどからの投資を奪われる可能性がある。首相の訴えは、TPPに加盟して投資先としての魅力を高め、外資誘致で優位性を確保したいとの思惑があると見られる。スピーチはミャンマーの台頭への焦りにも聞こえた。

「工業化」と「効率化」を目指すテイン・セイン

 ミャンマーにとっても、外資の導入は経済発展に不可欠だ。テイン・セイン大統領は6月19日、民政移管2年目は「改革の第2波」として、経済改革を推進する方針を表明した。その際、昨年3月の民政移管以来、初めてとなる2015年度までの中期的な経済計画を発表し、1人あたり国内総生産(GDP)を3倍に増やす目標を打ち出した。政府が網羅的な成長目標を示すということは、「経済無策」だった軍政時代は恐らくなかったのではないだろうか。
 中期経済計画の柱は、▼今後5年は年7.7%成長を確保する▼GDPの産業別構成比のうち、農業部門は36.4%から29.2%に削減する一方、工業部門は26.0%から32.1%に高める▼国営企業の経済活動への関与を縮小し、民営化を推進する▼特に、政府系企業の割合が大きい情報通信、電力、エネルギー、林業、教育、福祉、金融部門で民間活動への影響評価を行なう▼副大統領をトップとする関係閣僚らによる民営化委員会を設ける▼法定最低賃金を導入する――などとなっている。
 産業構造では工業化に取り組む一方、経済を効率化するために民間活力を引き出そうという狙いだ。大統領はその前提として、外国からの投資と援助が欠かせないと強調した。
 工業化のシナリオとしては、外資政策の司令塔である国家計画経済開発省のアウン・ナイン・ウー投資・企業管理局長に7月にネピドーで会った際、「国民の300万人がやむなく外国へ働きに出ており、外資誘致の最大の焦点は雇用創出だ。誘致戦略は3つのステージに分け、第1ステージは衣類や靴、電機など労働集約型の企業、第2ステージはすそ野企業が幅広い自動車など付加価値が高い産業、第3ステージは重工業やハイテク産業の誘致に力を入れる。各ステージの目標時期は設定していない」と語った。ミャンマー政府は、時間をかけながら産業構造の高度化を進めていく青写真を描いている。

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