日本人女子学生殺害で炙りだされる国家の病根――ルーマニア

佐藤伸行
執筆者:佐藤伸行 2012年9月9日
カテゴリ: 国際 社会 文化・歴史
エリア: ヨーロッパ

 ほとんど抗えないまま、強い力で死の淵に吸い込まれてしまう「魔の刻」が訪れるときがある。

 8月半ば、ルーマニア国際空港に降り立った直後、まさに鬼畜としか言いようのない男に殺害された日本人女子大生、益野友利香さん(享年20)は、遥か異国の地で恐るべき魔物に魅入られてしまったかのようだった。

 逮捕されたニコラエ・ブラド容疑者(26)は空港に到着したばかりの益野さんに接近し、一緒に白タクに乗り込み、近くの森に連れ込んで暴行・殺害し、所持品を奪った疑いが持たれている。

 ルーマニアは欧州連合(EU)に加盟したとはいえ、今なお欧州最貧国グループから抜け出せず、政治・社会的にも不安定な国だが、益野さんは外国でのインターンシップ活動として、ルーマニア人に日本語を教える仕事を心待ちにしていたに違いない。

 実はあまり知られていないが、ルーマニアは東欧の中でも日本語学習熱が高い国だ。学生ら日本語学習者は2000人ほどいて、東欧ではポーランド、ウクライナに次いで3番目に多いということである。アニメなどの日本のサブカルチャーの浸透が日本語学習熱の背景になっているようだが、そうした微笑ましい2国間の文化交流が事件の遠景に見えるとすれば、いささか複雑な気持ちにならざるを得ない。

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執筆者プロフィール
佐藤伸行
佐藤伸行 追手門学院大学経済学部教授。1960年山形県生れ。85年早稲田大学卒業後、時事通信社入社。90年代はハンブルク支局、ベルリン支局でドイツ統一プロセスとその後のドイツ情勢をカバー。98年から2003年までウィーン支局で旧ユーゴスラビア民族紛争など東欧問題を取材した。06年から09年までワシントン支局勤務を経て編集委員を務め退職。15年より現職。著書に『世界最強の女帝 メルケルの謎』(文春新書)。
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