スペインのカタルーニャ自治州が求める「独立」の意味

執筆者:国末憲人 2012年10月4日
エリア: ヨーロッパ
「カタルーニャ、欧州の新国家」を合言葉に行進する市民(c)AFP=時事
「カタルーニャ、欧州の新国家」を合言葉に行進する市民(c)AFP=時事

 国難に直面した時、一致団結して乗り切ろうとするのでなく、逆に内紛に陥って自分たちで足を引っ張り合う場合が少なくない。いやいや、我が国のことではない。財政危機に陥っているスペインで、東部カタルーニャ自治州の自治拡大を求める動きが強まり、独立にまで突き進むのでは、との懸念さえ生まれている。

“スペインのドイツ”カタルーニャ

「カタルーニャとスペインとの関係は、欧州の北部と南部との関係と、ある種似ている。北は南にうんざりしているんだ。カタルーニャも、スペインという国家にうんざりしているよ」
 カタルーニャ自治州のアルトゥル・マス首相は9月、自分たちとスペイン中央政府の関係について、マドリードで記者団にこう語った。どうやら彼は、国内でカタルーニャが置かれた状況を欧州連合(EU)内のドイツに、スペインをギリシャか何かに、重ね合わせているようだ。
 カタルーニャは、スペイン東部のバルセロナを中心とする国内最大の自治州である。産業革命の影響を早く受け、スペインの他の地域に先駆けて発展した。現在も、その経済力はスペイン全体の牽引役で、国内総生産(GDP)の5分の1を占める。
 その意味では、EU内のドイツにあたると、まあ言えないこともない。「なのに自分たちが苦労するのは、他の地域が足を引っ張るから」といった不満も以前から強かった。
 今回のユーロ危機とともに、この不満は増幅された。カタルーニャは、スペインの自治州として最も多い400億ユーロ(約4兆円)あまりの債務を抱えている。スタンダード・アンド・プアーズ(S&P)は8月末、同自治州の信用格付けを2段階引き下げ、投機的格付けにあたる「BB」としたが、「こんな扱いを受けるのも、税金を中央政府に吸い上げられるから」との声が自治州内で強まった。
 6月に自治州内で実施された世論調査で、「住民投票が実施された場合には独立に賛成する」と答えた割合は51.1%に達した。前年に比べ8ポイント増で、賛成が半数を超えるのは初めてだ。カタルーニャのナショナルデー「ラ・ディアダ」にあたる9月11日には、地元警察当局発表で150万人に達する市民がバルセロナの街路を埋めた。参加者らは「カタルーニャ、欧州の新国家」を合言葉に、スペインからの分離独立を口々に叫びながら行進した。

カテゴリ: 経済・ビジネス
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執筆者プロフィール
国末憲人(くにすえのりと) 東京大学先端科学技術研究センター特任教授 1963年岡山県生まれ。85年大阪大学卒業。87年パリ第2大学新聞研究所を中退し朝日新聞社に入社。パリ支局長、論説委員、GLOBE編集長、朝日新聞ヨーロッパ総局長などを歴任した。2024年1月より現職。著書に『ロシア・ウクライナ戦争 近景と遠景』(岩波書店)、『ポピュリズム化する世界』(プレジデント社)、『自爆テロリストの正体』『サルコジ』『ミシュラン 三つ星と世界戦略』(いずれも新潮社)、『イラク戦争の深淵』『ポピュリズムに蝕まれるフランス』『巨大「実験国家」EUは生き残れるのか?』(いずれも草思社)、『ユネスコ「無形文化遺産」』(平凡社)、『テロリストの誕生 イスラム過激派テロの虚像と実像』(草思社)など多数。
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