「経済改革」を前に身震いする金正恩後継体制(下)「70年代キャンペーン」の意味

平井久志
執筆者:平井久志 2012年10月15日
カテゴリ: 国際 金融
エリア: 朝鮮半島

 北朝鮮の「新たな経済管理改善措置」は10月1日にも実施される可能性があるとみられていたが、本稿執筆時点ではまだ実施されていないようだ。
 これまでに指摘されている経済改革の大枠は、▽農業分野では「分組」と呼ばれる集団責任制の生産規模を「10人から25人」から「4人から6人」という実質的には世帯ごとの生産責任制に小規模化▽農業協同組合や各企業での生産高や利潤の自己処分率を高めて独立採算機能を高める▽農産物の買い取り価格引き上げによる市場価格との格差是正▽地下資源の管理を内閣に一元化▽農業や企業活動での先行投資資金を国家が負担し、収穫や販売後に一定部分を国家が回収――などが実施されるのではないかという観測が強まっている。

商業銀行の必要性

 北朝鮮の経済専門誌「経済研究」2012年第3号(7月30日刊)に掲載された「現時期、価格戦略を正しく立てることは人民生活向上のための重要な要求」と題された論文は、「社会主義で価格戦略を正しく立て、人民生活を向上させようとするなら消費品の価格水準を体系的に下げなくてはならない」「大衆消費品の価格を体系的に下げ、農業生産物の買い取り価格を合理的に決めることは農民たちの生活水準を高めるのに重要である」と主張し、消費品の価格を下げると同時に、農産物の買い取り価格を引き上げる可能性も示唆した。
 また、同誌に掲載された別の論文では「住民の消費商品量を保障するため、流通する現金を住民たちの手中から銀行機関に集中させるべきだ」「国家銀行への貨幣集中は経済建設を促すための貨幣資金の計画的かつ統一的な利用を実現させる」と主張した。
 聯合ニュースは8月28日に北朝鮮消息筋が「北朝鮮が経済改革のため、内閣傘下の発券銀行である朝鮮中央銀行の地位を強化するとともに、軍と労働党が管理していた銀行の力を弱める作業を進めている」と述べたと報じた。
 北朝鮮では朝鮮中央銀行はあるが一般住民が手軽に利用できる商業銀行がない。一般住民は朝鮮中央銀行に預金をすると、引き出せる金が制限されるので、現金を銀行に預けようとせず自分でため込む「たんす預金」となる。このために資金が流通せず、通貨量がどんどん増えてインフレを引き起こす。この論文は住民たちがいつでも預けたり引き出せたりする商業銀行の必要性を訴えているようにも読める。北朝鮮が経済改革を成功させるためには一般住民が安心して利用できる銀行の設置など金融改革が必須の条件になるであろう。

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執筆者プロフィール
平井久志
平井久志 ジャーナリスト。1952年香川県生れ。75年早稲田大学法学部卒業、共同通信社に入社。外信部、ソウル支局長、北京特派員、編集委員兼論説委員などを経て2012年3月に定年退社。現在、共同通信客員論説委員。2002年、瀋陽事件報道で新聞協会賞受賞。同年、瀋陽事件や北朝鮮経済改革などの朝鮮問題報道でボーン・上田賞受賞。 著書に『ソウル打令―反日と嫌韓の谷間で―』『日韓子育て戦争―「虹」と「星」が架ける橋―』(共に徳間書店)、『コリア打令―あまりにダイナミックな韓国人の現住所―』(ビジネス社)、『なぜ北朝鮮は孤立するのか 金正日 破局へ向かう「先軍体制」』(新潮選書)『北朝鮮の指導体制と後継 金正日から金正恩へ』(岩波現代文庫)など。
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