莫言のノーベル文学賞に対する中国の複雑な心境

野嶋剛
執筆者:野嶋剛 2012年10月13日

 村上春樹ではなく、莫言がノーベル賞を取った。

会社の仕事でいわゆる「予定稿」をたくさん準備して村上受賞に備えていただけに、選考委員会の「モーイェン」という英語を耳にした途端、職場には何とも言えない空気が流れた。

アジア人の受賞だから本来はニュース価値は日本でも高いはずなのに・・・。そして、日本人が莫言の受賞にあまり喜べない理由の一つには、尖閣諸島をめぐる昨今の日中関係のなかで、また一つ、中国側に「してやったり」と喜ばせる材料になるという予感が心の中に走ったからではなかっただろうか。

それではいけないと思いつつ、正直なところ、私はそんな風に思ってしまった。

ところが、中国側の反応をざっと見回してみると、喜ぶには喜んでいるが、どうも手放しで狂喜している、というところは見られない。もちろんメディアや作家協会は喜びのコメントを出してはいるが、どこか形式的で、素っ気なく感じる。

ノーベル賞は中国にとって鬼門というか、仇というか、相いれない存在だった。天安門事件で中国を捨てて文学賞を取った高行健、平和賞のダライ・ラマ、そして、一昨年の劉暁波。どれも「体制外」ばかりの受賞で、そのたびに中国政府は批判・黙殺、そしてノルウェー政府への「嫌がらせ」も続け、「ノーベル賞の受賞は欧米への屈服」ということになっていた。

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執筆者プロフィール
野嶋剛
野嶋剛 1968年生れ。ジャーナリスト。上智大学新聞学科卒。大学在学中に香港中文大学に留学。92年朝日新聞社入社後、佐賀支局、中国・アモイ大学留学、西部社会部を経て、シンガポール支局長や台北支局長として中国や台湾、アジア関連の報道に携わる。2016年4月からフリーに。著書に「イラク戦争従軍記」(朝日新聞社)、「ふたつの故宮博物院」(新潮選書)、「謎の名画・清明上河図」(勉誠出版)、「銀輪の巨人ジャイアント」(東洋経済新報社)、「ラスト・バタリオン 蒋介石と日本軍人たち」(講談社)、「認識・TAIWAN・電影 映画で知る台湾」(明石書店)、訳書に「チャイニーズ・ライフ」(明石書店)。
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