堕ちゆく世界の迷走
堕ちゆく世界の迷走(26)

「日中冷戦」――今まさに切れんとする日本の最も弱い鎖

執筆者:青柳尚志 2012年10月26日
エリア: 中国・台湾 日本
「ニューヨーク・タイムズ」紙などに掲載された、中国が尖閣諸島の領有権を主張する広告(c)時事
「ニューヨーク・タイムズ」紙などに掲載された、中国が尖閣諸島の領有権を主張する広告(c)時事

 中国との間の冷戦は否応なく長期化の様相を呈してきた。9月の日本の貿易統計に冷戦の爪痕が現れている。日本の輸出全体の2割を占める対中輸出が前年同月比14%減った。自動車、エンジン、一般機械など総崩れだ。反日デモが暴徒化し、各種の嫌がらせが露骨になったのが15日以降だから、影響がもろに現れるのは10月以降である。輸出減を通じて企業業績や景気の下押し圧力となるだろう。  一連の対日報復がきついのは、日本の景気が下向きかけた局面での出来事だったからだ。海外メディアに明言したことの当否は別として、「尖閣諸島の国有化は中国政府の虎の尾を踏みかねない」という趣旨の丹羽宇一郎中国大使の懸念は正しかった。今回の問題は「日中摩擦ではなく、日日摩擦だ」と声を潜める外交関係者もいる。石原慎太郎都知事が尖閣の買い上げを表明したのを機に、ことを穏便に収めようとして実施した国有化。波風を立てまいとして実施した策が、日中の冷戦を誘発してしまったからだ。

中国の脅威とアジアの沈黙

 ヘーゲル流にいえば「歴史における理性の狡知」ともいうべき出来事だろうか。日本にとって最も不愉快なのは、「もともと国有化したがっていた政府が、石原都知事とつるんでボケとツッコミを演じた」とする二人羽織説だろうか。中国当局がさかんに吹聴している。「東アジアのトラブルメーカーは日本である」という訳だ。日本側がつらいのはアリバイを証明するのが至難の業である点だ。
 尖閣をめぐる軍事的なブラフの掛け合いについては、前回のこの欄で保障占領のリスクを指摘したが、遺憾ながらそのリスクは増しているようだ。直近も中国はフィリピンから距離にして150キロメートルのところにあるサンゴ礁の島を我が物にした。あからさまな侵略行為なのに、中国の脅威が身に染みてか、アジアのどこからも非難の声は上がらない。この日本からを除いては。
 中国によって尖閣が占領された場合もしかり。さわらぬ神に祟りなしとばかりに、アジアを沈黙が支配するだろう。豊富な資金力にモノを言わせて、中国は「尖閣はもともと中国領」というキャンペーンを、カネにモノを言わせた新聞広告などで繰り広げている。対する日本は「領土問題は存在しない」と強調するが、少なくとも米欧では「ちっぽけな島をめぐって、無用な摩擦を繰り返している」としか映らない。

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