「質的な変化」を遂げつつある米韓同盟(上)

平井久志
執筆者:平井久志 2012年11月6日
カテゴリ: 国際
エリア: 北米 朝鮮半島

 日本、米国、韓国、中国がそれぞれ権力の移行期にある中で、朝鮮半島をめぐる安全保障状況にいろいろな変化が生まれつつある。竹島(韓国名・独島)問題や尖閣諸島(中国名・釣魚島)問題という領土紛争の激化による日韓・日中の対立の激化、中国の海洋拡張主義、北朝鮮の金正恩(キム・ジョンウン)後継政権登場による不確実性の増大という複雑な情勢の中で米国と韓国の関係にも大きな変化が生まれようとしている。特に、韓国のミサイル射程の延長や、2015年12月に迫った戦時作戦統制権の米国から韓国への移管と米韓連合司令部の解体という米韓関係の変化は、東アジアの平和と安定にどのような影響を及ぼすのだろうか。

韓国ミサイル射程800キロへ延長

 韓国の千英宇(チョン・ヨンウ)青瓦台(大統領官邸)外交安保首席秘書官は10月7日、米国と2010年9月から行なってきた改定交渉を経て、韓国の弾道ミサイルの射程をこれまでの300キロから800キロに延長することなどを盛り込んだ「新ミサイル政策宣言」を発表した。
 韓国のミサイル開発は米国の規制を受けてきた。韓国は米国のミサイル技術を導入し1979年に「ミサイル指針」が作成されたが、この時の規制は射程が180キロ、弾頭重量は500キログラムだった。その後、米韓両国がこの指針の改定交渉を行なったのは1995年から。北朝鮮が1998年にテポドン・ミサイルを発射したこともあり、2001年にミサイル射程が300キロに延長され、弾頭重量は500キロに据え置かれた。当時、韓国は射程を500キロまで延長することを米国に要求したが、米国は北東アジアの軍備競争を煽るとして300キロに抑えた。
 北朝鮮は2009年4月に「光明星2号」と主張するミサイルを発射し、同年5月に2度目の核実験を実施した。李明博(イ・ミョンバク)大統領は、北朝鮮のミサイルや核の脅威が高まる中で射程300キロでは北朝鮮の核やミサイルの脅威に対応できないとして、2009年初めにプロジェクトチームを作り、2010年9月から米国と本格的な改定交渉に着手した。
 今回の改定ではミサイルの射程は300キロから800キロに延長されたが、弾頭重量は500キロに据え置かれた。しかし、射程が短いと弾頭重量を増加することができる「トレードオフ」という考え方に従い、射程が550キロなら弾頭重量は1トン、射程が300キロなら1.5-2トンの弾頭重量が認められた。
 韓国の軍事境界線の中部戦線から300キロ以内にある北朝鮮のミサイル基地は4-5カ所、400キロ以内が6-7カ所、550キロ以内が9-10カ所とされ、韓国は550キロの射程能力があれば北朝鮮のすべてのミサイル基地を攻撃可能になった。射程550キロであれば弾頭重量は1トンまで許容されているので、1トンあれば北朝鮮のミサイル基地や移動式ミサイル発射車両などを破壊するのに十分であるという。
 また、韓国南部の浦項から北朝鮮の東北端の羅津までが800キロであり、800キロの射程のミサイルがあれば韓国南部からでも北朝鮮のすべてのミサイル基地を攻撃できることになった。

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執筆者プロフィール
平井久志
平井久志 ジャーナリスト。1952年香川県生れ。75年早稲田大学法学部卒業、共同通信社に入社。外信部、ソウル支局長、北京特派員、編集委員兼論説委員などを経て2012年3月に定年退社。現在、共同通信客員論説委員。2002年、瀋陽事件報道で新聞協会賞受賞。同年、瀋陽事件や北朝鮮経済改革などの朝鮮問題報道でボーン・上田賞受賞。 著書に『ソウル打令―反日と嫌韓の谷間で―』『日韓子育て戦争―「虹」と「星」が架ける橋―』(共に徳間書店)、『コリア打令―あまりにダイナミックな韓国人の現住所―』(ビジネス社)、『なぜ北朝鮮は孤立するのか 金正日 破局へ向かう「先軍体制」』(新潮選書)『北朝鮮の指導体制と後継 金正日から金正恩へ』(岩波現代文庫)など。
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