ハン・スーインの死と「世紀の一生」

野嶋剛
執筆者:野嶋剛 2012年11月10日

先週ぐらいだったか、新聞の社会面に作家のハン・スーインが95歳で亡くなったという記事が載った。扱いはベタ。映画「慕情」の原作を書いた作家、という書かれ方をしていた。ハン・スーインについては、「借り物の場所、借り物の時間」という簡潔な一言で、香港の魅力と運命を表現したことはあまりにも有名だ。

中国人の客家出身の父、ベルギー人の貴族出身の母を持ち、医療の道を志した。そのなかで、国民党の軍人と恋に落ちて結婚。しかし、破綻した結婚となり、夫は国共内戦で命を落とした。香港では、英国人の出版商と結婚し、文筆の世界で一気に名声を築いた。

若い頃の写真を見てみると、確かにエキゾチックに怪しく美しいから、一目惚れしてしまう男性も多く、彼女自身も恋愛体質だったようで、多くの男性を愛した。

ハン・スーインはペンネームである。本名は周光瑚という名前だった。ハン・スーインの漢字である韓素英は「漢属英」という三文字の発音の当て字だ。「英国に嫁いだ漢人」という意味になる。しかし、同時に、この名前は彼女の人生の歩みをそのまま現しているように思える。

英国に属する漢。つまり香港、あるいはシンガポール、ペナンなどのアジアの植民地を指しているといわれている。彼女は作家として、医師として、これらの土地を渡り歩きながら、逆に中国人としての愛国意識を高めていった。

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執筆者プロフィール
野嶋剛
野嶋剛 1968年生れ。ジャーナリスト。上智大学新聞学科卒。大学在学中に香港中文大学に留学。92年朝日新聞社入社後、佐賀支局、中国・アモイ大学留学、西部社会部を経て、シンガポール支局長や台北支局長として中国や台湾、アジア関連の報道に携わる。2016年4月からフリーに。著書に「イラク戦争従軍記」(朝日新聞社)、「ふたつの故宮博物院」(新潮選書)、「謎の名画・清明上河図」(勉誠出版)、「銀輪の巨人ジャイアント」(東洋経済新報社)、「ラスト・バタリオン 蒋介石と日本軍人たち」(講談社)、「認識・TAIWAN・電影 映画で知る台湾」(明石書店)、訳書に「チャイニーズ・ライフ」(明石書店)。
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