政治をゼロから考える
政治をゼロから考える(10)

いま問われるべき「首相の解散権」

宇野重規
執筆者:宇野重規 2012年11月22日
カテゴリ: 政治
エリア: 日本

質問 「首相の解散権はどのように行使されるべきでしょうか?」

11月14日の党首討論で突然解散に言及した野田首相(右)(c)EPA=時事
11月14日の党首討論で突然解散に言及した野田首相(右)(c)EPA=時事

 党首討論の席での野田佳彦首相による解散発言は大きな波紋を呼びました。何とか選挙を先送りしたいと思っていた民主党議員はもちろんのこと、解散を迫っていた当の安倍晋三自民党総裁ですら、突然の発言に動揺を隠せませんでした。  まさにこの瞬間しかない、と思い定めていた野田首相の作戦通りとも言えますが、与党議員すら押し切ってのこの決断は、あらためて首相の解散権とは何なのかを考えさせるきっかけとなりました。

憲法上の無理?

 ちなみに「首相の解散権」と書きましたが、実をいえば、それ自体に議論があります。憲法の第69条には、衆議院における内閣不信任案の可決への対抗措置として、衆議院の解散が規定されています。とはいえ、これはあくまで不信任案が可決された場合の話です。
 今回の場合、参議院でこそ野田首相に対する問責決議案が可決されていますが、衆議院で内閣不信任案が可決されていたわけではないので、あてはまりません。
 憲法の規定としてはもうひとつ、第7条があります。これは天皇の国事行為を定めたものですが、そのなかに衆議院の解散があります。天皇は内閣の助言と承認の下に国事行為を行なうので、事実上、内閣による衆議院の解散権を意味するものとして理解されてきました。
 とはいえ、憲法の条文を素直に読めば、衆議院の解散はあくまで不信任案可決の場合のみを想定しているようにも思えます。この点について、憲法制定直後から議論がありましたが、結局、第7条による解散も認めるようになったわけです。
 さらにいえば、第7条による解散を認めるとしても、認める主体はあくまで内閣であって、首相ではありません。したがって、解散に反対する閣僚がいる場合が問題となりますが、現状では反対する閣僚を首相が罷免することで問題をクリアできるとされています。
 かつて小泉純一郎首相は郵政解散の際に、反対した島村宜伸農水相を罷免しました。「自民党をぶっ壊す」と豪語して選挙を強行した小泉元首相らしい話ですが、今回の野田首相の解散も、反対する閣僚を押し切ってのものでした。異例といえば異例な話です。
 こうして見ると、「首相の解散権」というのは、憲法上はいささか無理をしてでも認められてきたといえます。それでは、はたして「首相の解散権」は必要なのでしょうか。必要だとしても、無制限であっていいのでしょうか。

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執筆者プロフィール
宇野重規
宇野重規 1967年生れ。1996年東京大学大学院法学政治学研究科博士課程修了。博士(法学)。東京大学社会科学研究所教授。専攻は政治思想史、政治哲学。著書に『政治哲学へ―現代フランスとの対話』(東京大学出版会、渋沢・クローデル賞ルイ・ヴィトン特別賞)、『トクヴィル 平等と不平等の理論家』(講談社、サントリー学芸賞)、『〈私〉時代のデモクラシー』(岩波新書)、共編著に『希望学[1]』『希望学[4]』(ともに東京大学出版会)などがある。
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