おかしな個性

成毛眞
執筆者:成毛眞 2004年10月号
カテゴリ: 金融

 友人に夏の終わりにお化け屋敷で一杯と誘われた。銀座のはずれにあるビアレストランである。なんの変哲もない下町風西洋飲み屋で、満員の客が歩道に並べられたテーブルにまであふれかえっている。ビールが旨い。 ところが、つまみがとんでもないのだ。ポテトサラダも見た目は普通なのだが、べちゃべちゃの玉ねぎとみりんと化学調味料の味がする。ウスターソースでごまかそうにも、そのソースはハーブというより仁丹の味がする。次にでてきた枝豆は、海水で煮たとしか考えられない。メンチカツは化学調味料を主材料に、肉を風味付けに加えたという代物。いくらなんでもやりすぎだと思う。 驚くのはその不思議な料理を美味しそうに食べながら、ビールを飲み交わす客が大勢いるということだ。決して雰囲気も最高ではない。ビールも極上ではない。しかも、銀座の中心から十五分も歩かなければいけない店がごったがえしているのは、彼らがそこの食事を旨いと思っているからにほかならない。幼少期の食生活を懐かしんでいるからだろうか。 最近では、化学調味料を使わないことを宣伝文句にしているラーメン屋も多い。コンビニの弁当も自然の風味を訴求する時代だ。しかし、昔なじんだ化学調味料の味を忘れられない人たちもいるはずなのだ。美食家の目を盗むようにして、心ゆくまで昔の味を楽しめる店の需要がある。化学調味料好きという個性なのだ。

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執筆者プロフィール
成毛眞
成毛眞 中央大学卒業後、自動車部品メーカー、株式会社アスキーなどを経て、1986年マイクロソフト株式会社に入社。1991(平成3)年、同社代表取締役社長に就任。2000年に退社後、投資コンサルティング会社「インスパイア」を設立。さまざまなベンチャー企業の取締役・顧問、早稲田大学客員教授ほか、「おすすめ本」を紹介する「HONZ」代表を務める。著書に『本は10冊同時に読め!』『日本人の9割に英語はいらない』『就活に「日経」はいらない』『大人げない大人になれ!』『ビル・ゲイツとやり合うために仕方なく英語を練習しました。 成毛式「割り切り&手抜き」勉強法』など(写真©岡倉禎志)。
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