行き先のない旅
行き先のない旅(18)

日系ブラジル人に「涙」で共感したのならば

大野ゆり子
執筆者:大野ゆり子 2004年11月号
カテゴリ: 国際 外交・安全保障
エリア: 中南米 日本

 サンパウロを訪れたのは数年前の十一月の末だった。南半球では夏が始まり、熱帯特有の空気が、薄いヴェールのように肌にねっとりとまつわりついてきた。日本人街を通りかかったのは、ちょうど昼時を回っていた。 街はどこか昭和三十年代を思わせた。横文字が主流になった今の日本では見られない「○○旅行社」「××荘」といった漢字の看板が、いくつも並んでいる。私は「○○定食屋」の暖簾をくぐって天ぷらうどんを注文した。扇風機が左右に首を振りながら揚げ物の匂いを運んでくる。畳に座った多くの客は、日本からの衛星放送のテレビを見ながら、黙ってそばをすすっていた。畳の床には、日本語の雑誌や新聞が手持ち無沙汰な客用に、乱雑に置かれている。

この記事は役に立ちましたか?
フォーサイト最新記事のお知らせを受け取れます。
この記事をSNSにシェアする
執筆者プロフィール
大野ゆり子 エッセイスト。上智大学卒業。独カールスルーエ大学で修士号取得(美術史、ドイツ現代史)。読売新聞記者、新潮社編集者として「フォーサイト」創刊に立ち会ったのち、指揮者大野和士氏と結婚。クロアチア、イタリア、ドイツ、ベルギー、フランスの各国で生活し、現在、ブリュッセルとバルセロナに拠点を置く。
comment:0
icon
  • 記事の閲覧、コメントの投稿には、会員登録が必要になります。
フォーサイトのお申し込み
注目記事ランキング
  • 24時間
  • 1週間
  • f
最新コメント
最新トピック
  • 新着
  • 高評価
  • コメント数順
back to top