欧州の人種差別と日本選手

星野 智幸
執筆者:星野 智幸 2013年5月27日
カテゴリ: スポーツ 国際
エリア: ヨーロッパ

 2013年が明けたばかりの1月3日、イタリア北部のスイス国境に近い小さな町で、4部リーグに所属するプロ・パトリアは、セリエAの名門ACミランを迎えて練習試合を行なっていた。

 前半の25分が過ぎたとき、左サイドを駆け上がってパスを受けたACミランの元ガーナ代表ケビン・プリンス・ボアテングは、突然ボールを拾って手に取ると、メインスタンドに向かって蹴り込んだ。そして、審判やプロ・パトリアの選手がなだめるのを振り切ってシャツを脱ぎ、ピッチを後にした。

 ボアテングが怒りを向けたスタンドには、プロ・パトリアのサポーター「ウルトラス」が陣取り、試合開始直後からボアテングらアフリカ系の選手に対し、猿の吠え声を真似たチャント(歌)を聞かせ続けていた。ミランはキャプテン、アンブロジーニの判断で全員が引き上げ、試合をボイコットした。この抗議行動は、ヨーロッパ中のサッカー関係者から支持された。

 

「この時代にそんなことするか?」

 イタリアだけでなくヨーロッパ全土で、アフリカ系人種の選手が常に差別的な言葉や仕草を向けられてきたことは、多くの事例が示している。2004年にスペイン代表監督だったアラゴネスは、当時のフランス代表のアンリを「あの黒ん坊」と呼んで罰金を科された。元ブラジル代表のロベルト・カルロスは2011年、ロシアリーグで観客からバナナを投げつけられた。同じ年、リヴァプールのウルグアイ代表スアレスは、マンチェスター・ユナイテッドのフランス代表エブラに侮蔑的な言葉を発し続け、8試合の出場停止を食らった。ロシアではサンクトペテルブルクのクラブ、ゼニトが昨年ブラジル代表フッキを獲得したとき、サポーターたちが、地元の選手だけでプレーしてきた伝統のあるクラブには黒人選手と同性愛の選手は不要だと宣言、激しい非難を浴びた。つい先日の5月12日には、セリエAミラン対ローマの試合で、またもボアテングとバロテッリがローマのサポーターから人種差別チャントを浴び、審判が試合を止めるという前代未聞の事件が起こった。

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執筆者プロフィール
星野 智幸
星野 智幸 作家。1965年ロサンゼルス生れ。早稲田大学第一文学部を卒業後、新聞記者をへて、メキシコに留学。1997年『最後の吐息』(文藝賞)でデビュー。2000年『目覚めよと人魚は歌う』で三島由紀夫賞、2003年『ファンタジスタ』で野間文芸新人賞、2011年『俺俺』で大江健三郎賞を受賞。著書に『ロンリー・ハーツ・キラー』『アルカロイド・ラヴァーズ』『水族』『無間道』などがある。
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