「学習の高速道路」は良いことずくめにあらず

執筆者:梅田望夫 2005年2月号
カテゴリ: IT・メディア

「ITとインターネットの進化によって将棋の世界に起きた最大の変化は、将棋が強くなるための高速道路が一気に敷かれたということです。でも高速道路を走り抜けた先では大渋滞が起きています」 前号で詳述した将棋プロ棋士・羽生善治さんのこの言葉は「インターネットの本質」を実に鋭くえぐったものだ。この「高速道路の整備と大渋滞」は、インターネットの普及に伴い、ありとあらゆる世界で起きつつある現象なのである。 これでもかこれでもかと厖大な情報が日々インターネット上に追加され、グーグルをはじめとする恐ろしいほどに洗練された新しい道具が、片っ端からその情報を整理していく。いったん誰かによって言語化されてしまった内容は、インターネットを介して皆と共有される。よって後から来る世代は、ある分野を極めたいという意志さえ持てば、あたかも高速道路を疾走するかのように過去の叡知を吸収し、もの凄いスピードで「プロの一歩手前」くらいまで到達できるようになった。これが羽生さんの言う「高速道路の整備」の意味である。 数学や物理学のような長い歴史を持つ学問の世界では、インターネットの有無などとは関係なく営々と「知の体系化」が行なわれてきた。一流の学者によって多くの教科書が書かれ、それが後進のための高速道路の役割を果たしてきた。しかし今、それと同じ意味のこと、つまり「学習のための高速道路」が、さまざまな分野で日々自動的に敷かれているのである。しかも、その道の権威が知を体系化して弟子に伝授するような閉鎖的なやり方ではなく、無数のプロフェッショナルが自らの知や経験を自由なフォーマットでインターネット上に公開するだけで、それらがすぐさま整理・体系化されていくという新しいやり方によってである。

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執筆者プロフィール
梅田望夫 1960年東京都生れ。94年渡米、97年コンサルティング会社ミューズ・アソシエイツを起業。著書に『ウェブ進化論』(ちくま新書)、『ウェブ時代をゆく』(同)、『ウェブ時代 5つの定理』(文藝春秋)、『ウェブ人間論』(共著、新潮新書)など。メジャーリーグの野球、そして将棋の熱烈なファン。
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