クオ・ヴァディス きみはどこへいくのか?

悪かったね米軍駐留下の投票で

執筆者:徳岡孝夫 2005年3月号
エリア: 中東 北米

 前にこのコラムで吉野家の話をしたことがある。一年ぶりに一日だけ、手持ち米国産牛肉で牛丼を「復活」させたので、吉野家から牛丼が消えた日のことを思い出した方もあるだろう。 その日で牛丼はおしまいだと、新聞やテレビにさかんに出たのに「なぜない」と暴れた男が一人いた。彼の暴力は新聞ダネになったが、おとなしく代替商品を食べた数百数千の客のことは紙面に載らなかった。 実はそれが、ジャーナリズムというものの本質である。親を殺した子の行為は話題になるが、一家団欒はならない。かつて岸信介首相は、反米・反岸デモで日本は革命前夜の様相だがどう思うかと問われ、「だが後楽園球場はきょうも満員だ」と答え、かえって叩かれた。ジャーナリズムは騒乱・混沌を愛し、無事平穏を憎む。また、図星をさされると逆上する。

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執筆者プロフィール
徳岡孝夫(とくおかたかお) 1930年大阪府生れ。京都大学文学部卒。毎日新聞社に入り、大阪本社社会部、サンデー毎日、英文毎日記者を務める。ベトナム戦争中には東南アジア特派員。1985年、学芸部編集委員を最後に退社、フリーに。主著に『五衰の人―三島由紀夫私記―』(第10回新潮学芸賞受賞)、『妻の肖像』『「民主主義」を疑え!』。訳書に、A・トフラー『第三の波』、D・キーン『日本文学史』など。86年に菊池寛賞受賞。
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