中東―危機の震源を読む
中東―危機の震源を読む(4)

混迷のレバノン史に新たなページは開くのか

池内恵
執筆者:池内恵 2005年4月号
カテゴリ: 国際
エリア: 中東

 二月十四日にハリーリー前首相が爆殺され、レバノン社会に走る亀裂が急速に表面化した。反シリア感情が高まり異例の自発的な反政府・反シリアデモが湧き起こるなか、二月二十八日にカラーミ首相は内閣総辞職を発表した。 直接の発端は二〇〇四年九月に親シリアのラフード大統領の続投を可能にする憲法改正が、シリアの意向を受けてレバノン国会で強行されたことにある。これに対してレバノン駐留シリア軍の撤退と民兵組織――事実上はイスラーム教シーア派組織ヒズブッラー(ヒズボラ)――の解体を要求する国連安保理決議一五五九が、米仏主導で採択され、呼応した閣僚の辞任に続き、十月にハリーリー自身が首相を辞していた。 レバノン情勢の流動化は国家の特異な成り立ちに基づく根本的な対立に由来する。イスラエルが世界のユダヤ人の「ナショナル・ホーム」であれば、レバノン共和国は地中海東・南部のアラブ人キリスト教徒にとっての「ナショナル・ホーム」として画定されたと言ってもいい。イスラーム教を支配宗教とするアラブ世界において、キリスト教徒は中世に宗教的価値において劣位とされ、政治的な制約下で生活してきた。アラブのキリスト教徒が宗教・政治的権利を十全に行使できる唯一の国として、レバノン共和国は設計された。

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執筆者プロフィール
池内恵
池内恵 東京大学先端科学技術研究センター准教授。1973年生れ。東京大学大学院総合文化研究科地域文化研究専攻博士課程単位取得退学。日本貿易振興機構アジア経済研究所研究員、国際日本文化研究センター准教授を経て、2008年10月より現職。著書に『現代アラブの社会思想』(講談社現代新書、2002年大佛次郎論壇賞)、『イスラーム世界の論じ方』(中央公論新社、2009年サントリー学芸賞)、『イスラーム国の衝撃』(文春新書)、本誌連載をまとめた『中東 危機の震源を読む』などがある。個人ブログ「中東・イスラーム学の風姿花伝」(http://ikeuchisatoshi.com/)。
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