行き先のない旅 (23)

こんどは回収騒ぎ 墜ちた星になった「ミシュラン」

執筆者:大野ゆり子 2005年4月号
エリア: ヨーロッパ

 グルメの指南書として不動の地位にあったミシュランガイドが揺らいでいる。ちょうど一年前、ミシュランガイドの元調査員が、企業秘密として一世紀の間、ヴェールに包まれていた調査の実態を暴露した本を出版すると、本欄でお伝えしたが、今年になってから、ミシュランガイドのベネルクス版で、まだ開店していないレストランに評価が与えられていたことが判り、すでに書店に出回った五万部が回収されるという、ガイドが一九〇〇年に創刊されて以来、初の事態となった。 今回の騒ぎの舞台となったのは、北海に面するベルギーのオステンド。色鮮やかな仮面の不思議な絵で有名なジェームズ・アンソールの故郷として知られ、かつては欧州社交界の紳士淑女が華麗なバカンスを過ごす土地だった。今では観光シーズンの夏以外、八キロもある灰色の海岸に、ひっそりと波が寄せて返す静かな港町である。

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執筆者プロフィール
大野ゆり子(おおのゆりこ) エッセイスト。上智大学卒業。独カールスルーエ大学で修士号取得(美術史、ドイツ現代史)。読売新聞記者、新潮社編集者として「フォーサイト」創刊に立ち会ったのち、指揮者大野和士氏と結婚。クロアチア、イタリア、ドイツ、ベルギー、フランスの各国で生活し、現在、ブリュッセルとバルセロナに拠点を置く。
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