ブックハンティング・クラシックス
ブックハンティング・クラシックス(4)

「エリートの傲慢」を活写したアメリカ・ジャーナリズムの傑作

執筆者:村田晃嗣 2005年5月号
カテゴリ: 国際 書評
エリア: 北米

『ベスト&ブライテスト』The Best and the Brightestデイヴィッド・ハルバースタム著/浅野輔訳朝日文庫 二十世紀前半のアメリカを代表するジャーナリストがウォルター・リップマンであることは衆目の一致するところだが、二十世紀後半のそれは、おそらくボブ・ウッドワードとデイヴィッド・ハルバースタムであろう。二十一世紀に入った今日も、両人とも現役である。 ウッドワードは、カール・バーンスタインとの共著『大統領の陰謀』(一九七四年)で、ウォーターゲート事件の真相を追及して一躍有名になったが、ハルバースタムは、この『ベスト&ブライテスト』(一九七二年)でベトナム戦争にのめり込むアメリカ政府のエリート群像を活写して、令名を馳せた。ウッドワードとバーンスタインは『ワシントン・ポスト』紙の地域面担当記者、ハルバースタムは『ニューヨーク・タイムズ』紙の特派員と、その背景は異なるが、内政と外交で超大国アメリカを蝕んだ事象を怜悧に扱っている。 本書の正確な書名は『ザ・ベスト・アンド・ザ・ブライテスト』で、「最良にして最も聡明な人々」を意味する。定冠詞の「ザ」に形容詞(ここでは最上級)で「~の人々」を表すとは、誰しも中学校の英語で習ったところである(やや脱線するが、邦題でその「ザ」が脱落しているのは、いかにも冠詞に弱い日本人用らしい)。この書名には、民主党のジョン・F・ケネディ政権からリンドン・B・ジョンソン政権にかけてアメリカ外交を担った「最良にして最も聡明な人々」が(今のところは)アメリカ史上最も愚昧で最も長い戦争に陥っていったことへの、痛烈な皮肉が込められている。

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