饗宴外交の舞台裏
饗宴外交の舞台裏(89)

ローマ法王の葬儀で交わされた「握手」

西川恵
執筆者:西川恵 2005年6月号
カテゴリ: 国際

「世界の首脳たちにとり、ひと時の外交デタント(緊張緩和)だった」と英タイムズ紙は書いた。ローマ法王ヨハネ・パウロ二世の葬儀のことである。 冷戦崩壊の陰の立役者であり、諸宗教の対話を主導し、死ぬ間際まで人権と平和の尊さを訴え続け、現代史に大きな足跡を残した同法王の葬儀には、世界の百を超える国が首脳レベルの代表を送り込んだ。 錚々たる顔ぶれの代表団を編成した国も少なくなかった。米国はブッシュ大統領、クリントン、ブッシュの前元大統領、ライス国務長官の四人。法王の祖国ポーランドはクワシニエフスキ大統領、元自主管理労組「連帯」議長で新生ポーランドのワレサ初代大統領ら四人。英国はチャールズ皇太子、ブレア首相ら四人。 主要国で誰も送らなかったのは中国だけだった。中国政府はバチカンと外交関係を持つ台湾の陳水扁総統の出席を阻止すべく、イタリア政府にビザを発給しないよう圧力をかけた。バチカンに行くにはローマ空港を利用しなければならないからだ。しかし伊政府は拒否した。 台湾にとって大きな外交的勝利だった。台湾は二十五カ国と外交関係を持つが、多くがアフリカ、中米の小国。欧州ではバチカンだけで、欧米に大きな影響力を持つバチカンの重要性は計り知れない。二〇〇三年、法王在位二十五周年のとき、陳総統の呉淑珍夫人が法王に謁見を果たしたが、その年の「最大の外交成果」とされたほどだった。

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執筆者プロフィール
西川恵
西川恵 毎日新聞客員編集委員。1947年長崎県生れ。テヘラン、パリ、ローマの各支局長、外信部長、論説委員を経て、今年3月まで専門編集委員。著書に『エリゼ宮の食卓』(新潮社、サントリー学芸賞)、本誌連載から生れた『ワインと外交』(新潮新書)、『国際政治のゼロ年代』(毎日新聞社)、訳書に『超大国アメリカの文化力』(岩波書店、共訳)などがある。2009年、フランス国家功労勲章シュヴァリエ受章。本誌連載に加筆した最新刊『饗宴外交 ワインと料理で世界はまわる』(世界文化社)が発売中。
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