「近代」を上滑るアメリカにカークが打った布石

会田弘継
執筆者:会田弘継 2005年6月号
カテゴリ: 国際 文化・歴史
エリア: 北米

 戦後米国保守思想史の起点にいた思想家ラッセル・カークのことを続ける。 戦後間もなく、彼が試みたのはアメリカの思想風景を変えることだった。ただ、はじめから、一種の敗北感を抱いていた。それは、初期の代表作『保守主義の精神』(一九五三)のタイトルを『保守主義の潰走』(The Conservative Rout)としたがっていたことにうかがえる。 それから三十年を経て、米国はレーガン時代以降、保守主義隆盛の時代に入る。その中で、カークは思想的バックボーンを作った「大御所」とみなされるようになった。しかし、一九九四年のその死に至るまで、どこか「居心地の悪さ」を感じ続けていた。 カークが論壇にデビューした一九五〇年代初めのアメリカには、文芸評論家で進歩派の泰斗ライオネル・トリリングが「リベラリズム(自由主義、進歩主義)が優位なだけでなく、唯一の知的伝統だ」と宣言するような状況があった。保守主義を不可能とするような思想風景だ。 アメリカは自由や平等といった理念で生まれた国だから、そうした(啓蒙思想に基づく)建国の理念を「保守する」のが保守主義だ。そう考えて、アメリカの政治伝統すべてを「リベラリズム」の枠組みでとらえようとする論調に勢いがあった。

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執筆者プロフィール
会田弘継
会田弘継 青山学院大学地球社会共生学部教授、共同通信客員論説委員。1951年生れ。東京外国語大学英米科卒。共同通信ジュネーブ支局長、ワシントン支局長、論説委員長などを歴任。2015年4月より現職。著書に本誌連載をまとめた『追跡・アメリカの思想家たち』(新潮選書)、『戦争を始めるのは誰か』(講談社現代新書)、訳書にフランシス・フクヤマ『アメリカの終わり』(講談社)などがある。
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