中東―危機の震源を読む (6)

アメリカ憎悪を肥大させたアラブ・ムスリムの原体験

執筆者:池内恵 2005年6月号
エリア: 中東

「中東でなぜアメリカは憎まれるのか」。9.11事件から現在に至るまでしばしば提起されてきた問いである。「イスラエルに肩入れした偏った中東政策が原因である」といった答え方が一般的であるが、それだけなのだろうか。 中東の反米感情には、政治的経緯や経済状況に還元し尽せない部分がある。自らの全人生を賭けて「アメリカ」という存在に打撃を与えて地上から消し去りたいと感じ、実際の行動に移すには、大きな飛躍を必要とする。この飛躍をもたらす衝動はどこに由来するのだろうか。クトゥブの見たアメリカ アラブ世界のアメリカ憎悪の感情を表出した典型例として、エジプトの政治思想家サイイド・クトゥブ(一九〇六―一九六六)の事例は注目を集めている(註)。

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執筆者プロフィール
池内恵(いけうちさとし) 東京大学先端科学技術研究センター グローバルセキュリティ・宗教分野教授。1973年生まれ。東京大学大学院総合文化研究科地域文化研究専攻博士課程単位取得退学。日本貿易振興機構アジア経済研究所研究員、国際日本文化研究センター准教授を経て、2008年10月より東京大学先端科学技術研究センター准教授、2018年10月より現職。著書に『現代アラブの社会思想』(講談社現代新書、2002年大佛次郎論壇賞)、『イスラーム世界の論じ方』(中央公論新社、2009年サントリー学芸賞)、『イスラーム国の衝撃』(文春新書)、『【中東大混迷を解く】 サイクス=ピコ協定 百年の呪縛』 (新潮選書)、 本誌連載をまとめた『中東 危機の震源を読む』(同)などがある。個人ブログ「中東・イスラーム学の風姿花伝」(http://ikeuchisatoshi.com/)。
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