「欧州の理念」を信じなかったフランスの“自家撞着”

渡邊啓貴
執筆者:渡邊啓貴 2005年7月号
カテゴリ: 国際
エリア: ヨーロッパ

統合に急ブレーキをかけたのは、「リーダー」を自任してきたフランスだった。EU拡大への「懐疑主義」を、旗振り役が克服できていなかったのだ。 フランスで五月二十九日に実施された国民投票で、EU(欧州連合)憲法条約の批准が拒否された。その衝撃は大きく、波紋はEU全体に拡大する傾向を見せている。 六月一日にはオランダが同じく国民投票の結果、憲法条約を否認し、同六日にはイギリスが国民投票の実質的延期を表明した。誰も否定できない“善なる概念”であるはずの「ヨーロッパ統合」が、ここにきて足踏み状態を強いられている。 投票の前後にパリにいた筆者が乗り合わせたタクシーの運転手は、国民投票の話題を出すと「俺の知ったことか!」と吐き捨てるように語気を荒らげたものだ。『ル・モンド』紙(五月三十一日付)によると、フランスの国民投票で批准拒否に投じた人の投票動機の中で最も多かったのは、「この条約がフランスの失業事情をさらに悪化させる」という理由だった(四六%)。次に「現状への不満」(四〇%)、「拒否することで条約の再交渉が可能となる」(三五%)、「憲法条約は過度にリベラルである」(三四%)、「条約が難しくて理解できない」(三四%)と続く。

この記事は役に立ちましたか?
フォーサイト最新記事のお知らせを受け取れます。
この記事をSNSにシェアする
執筆者プロフィール
渡邊啓貴
渡邊啓貴 東京外国語大学大学院総合国際学研究院教授。1954年生れ。パリ第一大学大学院博士課程修了、パリ高等研究大学院・リヨン高等師範大学校客員教授、シグール研究センター(ジョージ・ワシントン大学)客員研究員、在仏日本大使館広報文化担当公使(2008-10)を経て現在に至る。著書に『ミッテラン時代のフランス』(芦書房)、『フランス現代史』(中公新書)、『ポスト帝国』(駿河台出版社)、『米欧同盟の協調と対立』『ヨーロッパ国際関係史』(ともに有斐閣)『シャルル・ドゴ-ル』(慶應義塾大学出版会)『フランス文化外交戦略に学ぶ』(大修館書店)『現代フランス 「栄光の時代」の終焉 欧州への活路』(岩波書店)など。
comment:0
icon
  • 記事の閲覧、コメントの投稿には、会員登録が必要になります。
フォーサイトのお申し込み
注目記事ランキング
  • 24時間
  • 1週間
  • f
  • 新着
  • 高評価
  • コメント数順