「欧州の理念」を信じなかったフランスの“自家撞着”

統合に急ブレーキをかけたのは、「リーダー」を自任してきたフランスだった。EU拡大への「懐疑主義」を、旗振り役が克服できていなかったのだ。 フランスで五月二十九日に実施された国民投票で、EU(欧州連合)憲法条約の批准が拒否された。その衝撃は大きく、波紋はEU全体に拡大する傾向を見せている。 六月一日にはオランダが同じく国民投票の結果、憲法条約を否認し、同六日にはイギリスが国民投票の実質的延期を表明した。誰も否定できない“善なる概念”であるはずの「ヨーロッパ統合」が、ここにきて足踏み状態を強いられている。

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執筆者プロフィール
渡邊啓貴(わたなべひろたか) 帝京大学法学部教授。東京外国語大学名誉教授。1954年生れ。慶應義塾大学大学院法学研究科博士課程・パリ第一大学大学院博士課程修了、パリ高等研究大学院・リヨン高等師範大学校・ボルドー政治学院客員教授、シグール研究センター(ジョージ・ワシントン大学)客員教授、外交専門誌『外交』・仏語誌『Cahiers du Japon』編集委員長、在仏日本大使館広報文化担当公使(2008-10)を経て現在に至る。著書に『ミッテラン時代のフランス』(芦書房)、『フランス現代史』(中公新書)、『ポスト帝国』(駿河台出版社)、『米欧同盟の協調と対立』『ヨーロッパ国際関係史』(ともに有斐閣)『シャルル・ドゴ-ル』(慶應義塾大学出版会)『フランス文化外交戦略に学ぶ』(大修館書店)『現代フランス 「栄光の時代」の終焉 欧州への活路』(岩波書店)など。最新刊に『アメリカとヨーロッパ-揺れる同盟の80年』(中公新書)がある。
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