中国の知日派が出した『釣魚島主権帰属』という本

野嶋剛
執筆者:野嶋剛 2013年8月23日
カテゴリ: 国際 外交・安全保障
エリア: 中国・台湾

 『釣魚島主権帰属』というタイトルのとても分厚い中国語の本が今春、中国の人民日報出版社から出版された。先月北京を訪れた際に書店で購入して読んでみたが、本の中身うんぬんではなく、出版の背後にある「意図」を想像して残念な思いがした。

 内容的には過去に発表された資料をまとめただけで、オリジナリティーはゼロに等しい。既存の刊行物で十分に網羅されている文章ばかりで、資料集としての価値も高くはない。下関条約やカイロ宣言、ポツダム宣言、日中共同声明の全文まで載せている。ネットで検索するだけで作れそうな本である。中国語に翻訳された日本人の文章には井上清、高橋庄五郎、そして孫崎享などの名前が並んでいる。いずれも尖閣諸島領有の日本側主張に疑念を向けた議論を展開した日本国内の識者たちばかりだ。

 本の編者は「北京中日新聞事業促進会」と書かれている。あまり普段は耳にしない団体だが、日本で駐在経験がある中国人記者を中心に作られている親睦団体だ。

 どうして元日本駐在記者たちがこのような本を出したのか。中国の知人のベテラン記者に聞くと、「いまの中国では日本通というだけで肩身が狭い。日本にいたことがある記者たちは各メディアで幹部となっている。自分の立場上、組織内で親日派と見られないための政治的なパフォーマンスのようなものですよ」という話だった。

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執筆者プロフィール
野嶋剛
野嶋剛 1968年生れ。ジャーナリスト。上智大学新聞学科卒。大学在学中に香港中文大学に留学。92年朝日新聞社入社後、佐賀支局、中国・アモイ大学留学、西部社会部を経て、シンガポール支局長や台北支局長として中国や台湾、アジア関連の報道に携わる。2016年4月からフリーに。著書に「イラク戦争従軍記」(朝日新聞社)、「ふたつの故宮博物院」(新潮選書)、「謎の名画・清明上河図」(勉誠出版)、「銀輪の巨人ジャイアント」(東洋経済新報社)、「ラスト・バタリオン 蒋介石と日本軍人たち」(講談社)、「認識・TAIWAN・電影 映画で知る台湾」(明石書店)、訳書に「チャイニーズ・ライフ」(明石書店)。
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