行き先のない旅
行き先のない旅(26)

習慣までは統合できない

大野ゆり子
執筆者:大野ゆり子 2005年7月号
カテゴリ: 国際
エリア: ヨーロッパ

 電器メーカー大手ボッシュに勤めるドイツ人の友人が、会社からインド人技術者の研修プログラムを任された。将来確実に人口が減少していくという事実を踏まえ、「優秀な移民を確保する」というのが、ドイツで近年議論される国策の一つだ。英語が堪能なインドの技術者は、そうした将来の可能性を考えたときに、最も歓迎されるべき外国人である。ボッシュなどの企業が研修の受け入れ先になることで、比較的、簡単に査証が発給され、この技術者たちは、二年間のドイツ滞在を体験することになる。 研修プログラムの初日、友人は会社の方針や仕事の流れを、張り切って英語で説明した。我ながら良くできたと思いながら、「Do you understand?」と聞いたところ、インド人技術者たちは、温和な笑顔で首をゆっくりと左右に振る。もしかして、自分の英語が通じなかったのだろうか? 友人は、不安になってもう一度はじめから、根気よく説明を繰り返した。もう十分だろうと思って、再び「Do you understand?」と聞いたところ、インド人たちは、再び首を左右に振る。さすがにおかしいと思った彼は、皆になぜ首を振るのか聞いたところ、インドでは「イエス」の意味で首を振るとわかったそうだ。日本の「いいえ」のような激しい動きで首を振るのではなく、左右に漂うように、ゆっくりと柔らかく動かすのがインド版「イエス」だという。

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執筆者プロフィール
大野ゆり子
大野ゆり子 エッセイスト。上智大学卒業。独カールスルーエ大学で修士号取得(美術史、ドイツ現代史)。読売新聞記者、新潮社編集者として「フォーサイト」創刊に立ち会ったのち、指揮者大野和士氏と結婚。クロアチア、イタリア、ドイツ、ベルギー、フランスの各国で生活し、現在、ブリュッセルとバルセロナに拠点を置く。
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