イラク・アナロジーは正しいのか──シリア問題への熟考(2)

池内恵
執筆者:池内恵 2013年9月7日
カテゴリ: 国際 外交・安全保障
エリア: 中東 北米

 シリア内戦への軍事介入をめぐる議論は、ブッシュ政権による2003年のイラク戦争開戦とのアナロジーでもっぱら論じられる傾向がある。軍事行動への参加を否決した英国議会の議論でもそうだった。日本でもイラクとの比較・類似を根拠に議論が展開されていることがきわめて多い。

 しかし、シリア内戦への介入の是非や手法をめぐる議論には、「イラク・アナロジー」はあまり適切ではない。確かに、ブッシュ政権が対イラク開戦の際の法的根拠として主張したのがフセイン政権による大量破壊兵器保持だった。現在のオバマ政権も、アサド政権による化学兵器の使用に対する懲罰として、限定的なシリア空爆を行うことを提唱している。しかし似ているのはこの部分だけである。イラクでこの問題が争点化したのは、湾岸戦争での停戦条件として国連安保理決議687(1991年4月3日)で、イラクに大量破壊兵器の廃棄が義務づけられたことが発端である。2002年11月8日の国連安保理決議1441ではイラクが武装解除義務の重大な不履行を犯していると非難し、全面的な査察の受け入れを求め、違反が続けば「重大な帰結」をもたらしうるという文言が盛り込まれた。ブッシュ政権側はこれを2003年のイラク戦争の開戦の主要な根拠とした。

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執筆者プロフィール
池内恵
池内恵 東京大学先端科学技術研究センター准教授。1973年生れ。東京大学大学院総合文化研究科地域文化研究専攻博士課程単位取得退学。日本貿易振興機構アジア経済研究所研究員、国際日本文化研究センター准教授を経て、2008年10月より現職。著書に『現代アラブの社会思想』(講談社現代新書、2002年大佛次郎論壇賞)、『イスラーム世界の論じ方』(中央公論新社、2009年サントリー学芸賞)、『イスラーム国の衝撃』(文春新書)、本誌連載をまとめた『中東 危機の震源を読む』などがある。個人ブログ「中東・イスラーム学の風姿花伝」(http://ikeuchisatoshi.com/)。
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