アラブ世界の動向まで見えるタイの「医療ビジネス」

樋泉克夫

 ここ15年ほど、タイの バンコクでは交通の便を考えて利用しているのが、アメリカ系資本 のホテルだ。それだけに、アラブ世界でアメリカが絡んで緊張が高まると、警戒は厳重になる。敷地内に立ち入る場合、客であっても厳しく誰何され、警備員は車のトランクを開けるだけでなく、大型の鏡を車体の下に滑り込ませ厳しく点検する。アメリカ軍による攻撃がはじまると、当然のように警備員の顔にも緊張感が漲る。加えてタイは、南部に過激なイスラム分離独立主義勢力を抱えているだけに、過激組織のゲリラ活動が活発化するや、当然のように警戒態勢はさらにエスカレートするのが常だった。

 ところが、 8月末から数日間、このホテルを利用したが、これまでとは様変わりだ。警備員が1人も見当たらない。何の点検もなく、そのまま車を車寄せに横付けさせることができた。シリア情勢が 緊迫の度を加えているというのに、今回はなぜか感じが違う。緊張感は皆無どころか、ホテル正面は「微笑み国」であるタイらしいムードに包まれている。

 なにが以前と変わったのかと観察する。そこで、宿泊客にアラブ系が圧倒的に多いことに気づいた。それにしても、多種多様なアラブ系民族衣装を身につけた老若男女がロビーといわず、エレベーターでもレストランでも威風堂々と闊歩している光景は、一瞬、ここがタイであることを忘れさせてくれるほどだ。であればこそ、アラブ過激派のテロなど警戒する必要がないということだろうか。警備陣の大幅縮小も納得できるというものだ。

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執筆者プロフィール
樋泉克夫
樋泉克夫 愛知大学教授。1947年生れ。香港中文大学新亜研究所、中央大学大学院博士課程を経て、外務省専門調査員として在タイ日本大使館勤務(83―85年、88―92年)。98年から愛知県立大学教授を務め、2011年より現職。『「死体」が語る中国文化』(新潮選書)のほか、華僑・華人論、京劇史に関する著書・論文多数。
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