中東―危機の震源を読む
中東―危機の震源を読む(11)

小石に額ずくシーア派の粘り強さがイラク安定の鍵

池内恵
執筆者:池内恵 2005年11月号
カテゴリ: 国際
エリア: 中東

 イラクの新憲法案への国民投票が十月十五日に迫った。この原稿を執筆している時点で結果は知るべくもないが、連邦制への道を開く憲法案に、スンナ派(スンニー派)が多数を占める中・西部で強い反対が表明されればイラク再建は停滞する。十月二日に国民議会は、国民投票で憲法案を廃案にするための基準を「(全十八州中)三州で投票総数の三分の二の反対」から「(全十八州中)三州で登録有権者数の三分の二の反対」に改めると決議し、スンナ派の拒否権を封じようとした。しかし国連の強い圧力を受け、三日後にこの決議を撤回した。武装集団がスンナ派各州でテロを起こして極端に投票率を低め、投じられた票の大多数が反対票となって憲法案が葬られる、あるいは否決はされなくとも、ボイコットしたことを理由にスンナ派勢力が新憲法と新体制の正統性を拒否し続ける危険性もある。目の当たりにしたイラクの縮図 六月にイラクの憲法起草委員会が来日した時に、日本側との会合に参加したことがある。もとより日本で実質的なことが話し合われるはずもない。議論の内容よりも、席の取り方、グループの固まり方、それぞれの委員の行動を観察してみた。上座に当然のように陣取るのがシーア派の委員たちである。人口比と積極的な政治参加により、コの字型に配置されたイラク側席の両側に場所を確保している。序列や出身地によって自然に座る位置も決まっているようだ。有力政治家の懐刀と思しき人物がとりわけ目立つ。仕立てのいいスーツを着こんで肩で風を切り、我が世の春を謳歌している。

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執筆者プロフィール
池内恵
池内恵 東京大学先端科学技術研究センター准教授。1973年生れ。東京大学大学院総合文化研究科地域文化研究専攻博士課程単位取得退学。日本貿易振興機構アジア経済研究所研究員、国際日本文化研究センター准教授を経て、2008年10月より現職。著書に『現代アラブの社会思想』(講談社現代新書、2002年大佛次郎論壇賞)、『イスラーム世界の論じ方』(中央公論新社、2009年サントリー学芸賞)、『イスラーム国の衝撃』(文春新書)、本誌連載をまとめた『中東 危機の震源を読む』などがある。個人ブログ「中東・イスラーム学の風姿花伝」(http://ikeuchisatoshi.com/)。
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