「有責主義」から「破綻主義」へ

執筆者:藤沢数希 2013年11月16日
カテゴリ: 文化・歴史 金融

幸いなことに、最近の日本の裁判所では、実質的に破綻している夫婦であるならば、片方がどうしても離婚したいと言っているなら、離婚を認めてやろうじゃないか、という方向に進んでいる。これを破綻主義という。
 そして、たとえ有責配偶者(離婚の原因を作った方、ふつうは愛人を作った方のこと)からの離婚請求であっても、いくつかの条件を満たせば離婚が認められるようになってきている。
 これらのことは結婚という金融商品の価値の評価に影響を与える。筆者は、結婚というのはある種の債券の譲渡契約であることを本連載で説明してきたわけであるが、その債券の価格、つまり、離婚するときに所得が少ない方(通常は妻である)がもらえる金額は、以下の式で見積もられる。

 結婚債券の価値 = 離婚成立までの婚姻費用の総額 + 離婚時の財産分与額 + 慰謝料

 ここで「離婚成立までの婚姻費用の総額」という項の価値は、どの程度離婚が認められ易いかで大きく変わってくるのだ。

 さて、まずはこうした破綻主義になってきた経緯について解説しよう。
 最高裁は、昭和27年の判決(最判昭27.2.19民集6巻2号110頁)で、愛人を作った夫が離婚請求をしていた事件で、「もしかかる請求が是認されるならば、妻はまったく俗にいう踏んだり蹴ったりである。法はかくのごとき不徳義勝手気侭を許すものではない」として請求を棄却した。それ以来、有責配偶者からの離婚請求は許されないという判例理論が確立した。有責主義である。つまり、「離婚成立までの婚姻費用の総額」というのは青天井だったのだ。
 しかし、その35年後の昭和62年の最高裁(最判昭62.9.2民集41巻6号1423頁)で、別居期間36年を経た74歳の夫から70歳の妻に繰り返しなされていた離婚裁判で、この夫婦の関係は実質的に破綻していて関係の修復の見込みがないとされ、有責配偶者からの離婚請求を認めるという画期的な判決が出たのだ。この判決以来、いわゆる有責主義から破綻主義への流れが生まれたわけである。

 こうした破綻主義により、明らかな離婚理由がなかったり、あるいは有責配偶者からの離婚請求であっても、実質的に破綻している夫婦の場合は、離婚できるようになった。しかし、誰でも離婚が認められるわけではなく、次のような条件が満たされなければいけないとされた。

1.夫婦の別居が両当事者の年齢及び同居期間との対比において相当の長期間に及んでいる

2.未成熟の子が存在しない

3.相手方配偶者が離婚により精神的・社会的・経済的に極めて苛酷な状態におかれる等離婚を認容することが著しく社会正義に反すると言えるような特段の事情が認められない

 簡単に言うと、別居期間が長くて、未成年の(経済的に自立していない)子がいなくて、離婚によって奥さんが生活ができなくなるなどということがなければ、愛人を作った夫からの離婚請求も認められるというわけだ。
 この別居期間というのがどれほど必要かというと、これは裁判官によってまちまちなのだが、最初の判例では30年以上だったのが、どんどん短期化され、20年、10年でも認められるようになってきており、最近では10年以下で認められるケースも出てきた。

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執筆者プロフィール
藤沢数希 理論物理学、コンピューター・シミュレーションの分野で博士号取得。欧米の研究機関で研究職に就いた後、外資系投資銀行に転身。以後、マーケットの定量分析、経済予測、トレーディング業務などに従事。また、高度なリスク・マネジメントの技法を恋愛に応用した『恋愛工学』の第一人者でもある。月間100万PVの人気ブログ『金融日記』の管理人。著書に『なぜ投資のプロはサルに負けるのか?』(ダイヤモンド社)『日本人がグローバル資本主義を生き抜くための経済学入門』(同)『「反原発」の不都合な真実』(新潮社)『外資系金融の終わり―年収5000万円トレーダーの悩ましき日々』(ダイヤモンド社)など。
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