タイ騒乱「国王誕生日祝賀休戦」はあるか

樋泉克夫

 タイでは陰暦12月の満月の夜、バナナの葉で飾った灯篭を川面に浮かべ、収穫を寿ぎ、大地を潤す水の聖霊に感謝し、罪穢れを水に流し魂を清める「ローイ・クラトーン(灯篭流し祭り)」が行なわれる。例年では、この祭りが終わるとタイは爽やかな乾季を迎える。だが、今年は違っていた。11月半ばの祭りが終わるのを待っていたかのように、またぞろ“熱く狂おしい政治の季節”がはじまったようだ。

 

悲劇は繰り返されるか?

 11月24日、バンコクの中心部に位置し、民主化・反政府運動の象徴でもある民主記念塔に「史上空前の100万人(警察発表では7万人)」を集めた反タクシン勢力は、インラック政権打倒・タクシン政治の排除を掲げ、翌25日には外務省、財務省・予算局、内閣府メディア管理部門を占拠し、さらに26日になると内務省、農業省、運輸省、観光・スポーツ省などを包囲し職員に退去を要求するなど、運動を一気にエスカレートさせた。

 これに対しインラック政権は25日夜、治安維持法の適用範囲をバンコクから周辺3県にまで拡大する一方、警察局は裁判所に一連の運動を指導するステープ元下院議員の逮捕状を請求した。

 インラック政権が反タクシン運動を抑え込むのか。あるいは反タクシン勢力がインラック政権を倒し、当初から掲げている「タクシン・システム」のタイからの一掃を実現させるのか。それとも双方が共倒れになり、タクシン派でも反タクシン派でもない第3勢力が登場して事態を収拾に向かわせるのか。混乱が短期間で収まるのか。それとも長期化するのか。タクシン派(赤シャツ勢力)によるバンコク商業地区占拠が発端となった、かつてのような市街戦による大量流血の事態(2010年)に至るのか。はたまた、反タクシン派(黄シャツ勢力)が展開した首相府とスワンナプーム国際空港の長期占拠戦術(2008年)の再演となるのか。それとも、国軍が武力で民主化要求デモを制圧した「5月事件」(1992年)の悲劇を繰り返すことになるのか――。

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執筆者プロフィール
樋泉克夫
樋泉克夫 愛知大学教授。1947年生れ。香港中文大学新亜研究所、中央大学大学院博士課程を経て、外務省専門調査員として在タイ日本大使館勤務(83―85年、88―92年)。98年から愛知県立大学教授を務め、2011年より現職。『「死体」が語る中国文化』(新潮選書)のほか、華僑・華人論、京劇史に関する著書・論文多数。
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