灯籠流しがつなぐもの

六車由実
執筆者:六車由実 2014年2月7日
カテゴリ: 文化・歴史 社会
エリア: 日本

利用者さんのひとことから

 少し前のことになる。昨年の6月のある日のこと。入浴の介助をしているときに、昭和2年生まれの佐藤トヨさん(仮名)が、こんなことをつぶやいた。

 

 こうやってさ、ここでお風呂に入れてもらったり、楽しくやらせてもらったりしてさ、本当にありがたいと思うよ。わたしゃ、こういうところをさ、おかあさん(長男の嫁)にも見てもらいたいだよ。ずっと前からそう思ってた。そうしたら、おかあさんも「ありがたいね。よかったね」って言ってくれると思うんだよね。……どうしたら、おかあさん、すまいるほーむに見に来てくれるかな。学校の参観日みたいなのがあったら来てくれるかな。参観日があったら、みんなうんと喜ぶよ、きっと。

 

 トヨさんは関節リュウマチの悪化や腰椎の圧迫骨折などが重なり、介助がなければ歩くことも困難であるし、足や腕の関節にいつも痛みを抱えている利用者さんである。でも、私たちがお手伝いをするたびに、すぐに「あ~りがとさん!」と明るい声でお礼の言葉をかけてくれる。トヨさんの「あ~りがとさん!」が響くたびに、すまいるほーむは穏やかな空気に包まれる、そんな方であった。

 すまいるほーむの小さなお風呂の中では、普段とは違った利用者さんたちの言葉が聞かれることもある(写真は筆者撮影、以下同)
すまいるほーむの小さなお風呂の中では、普段とは違った利用者さんたちの言葉が聞かれることもある(写真は筆者撮影、以下同)

 そのトヨさんも、同居しているお嫁さんのことになると口籠ってしまう。些細なことについても、「おかあさんに聞いてみないとわからない」と言うことが多く、とてもお嫁さんに気を遣っているようにみえる。また、みんなが爪にきれいな色のマニュキュアを塗っているのを遠目に見ていたトヨさんに、「塗ってみますか」と声をかけると、「おかあさんに笑われちゃうからいいよ」と遠慮されることもあった。

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執筆者プロフィール
六車由実
六車由実 1970年静岡県生まれ。民俗研究者。デイサービス「すまいるほーむ」管理者・生活相談員。社会福祉士。介護福祉士。2008年に東北芸術工科大学准教授を退職し、静岡県東部地区の特別養護老人ホームの介護職員に転職。2012年10月から現職。「介護民俗学」を提唱し実践する。著書に『神、人を喰う』(第25回サントリー学芸賞受賞)、『驚きの介護民俗学』(第20回旅の文化奨励賞受賞、第2回日本医学ジャーナリスト協会賞大賞受賞)。
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