経済の頭で考えたこと (64)

「イラン大変容」が導く中東情勢の新たな激動

 中東の秩序は第1次大戦後に一変した。そういう意味では現在の主権国家体制はせいぜい1世紀の歴史しかない。そうしたなかでイランだけは2000年を超える堅牢な国家システムを維持している。日本の中東研究の歴史がイランに1つの焦点を絞ってきたのには根拠があるのだ。明治維新後の美術や文芸を含む中東研究の優に半ば以上がイラン関連だと聞いても、さもあらんと了解する由縁である。

 イスラム教のシーア派はイランの地で基盤を得たという見方もされる。しかしスンニー派に属する支配階級が権力を維持する多くのアラブ国家と比較すると、イスラム以前の歴史が違い過ぎる。シーア派に対するスンニー派の一種憎悪の念を理解することは難しいが、シーア派が偶像崇拝から完全には脱していないことが理由だとする説は私にはそれなりに説得力がある。イランにはムハマド以前の文化の歴史があり、それを完全に払拭することは、日本の地における文化と宗教との交錯を考えても、一神教といえども容易なことではないだろう。テヘランにある考古学博物館を訪れると、伝統的文化がイスラム教伝来後も少なからぬ影響をとどめたと思わざるをえない。

カテゴリ: 軍事・防衛
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執筆者プロフィール
田中直毅(たなかなおき) 国際公共政策研究センター理事長。1945年生れ。国民経済研究協会主任研究員を経て、84年より本格的に評論活動を始める。専門は国際政治・経済。2007年4月から現職。政府審議会委員を多数歴任。著書に『最後の十年 日本経済の構想』(日本経済新聞社)、『マネーが止まった』(講談社)などがある。
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