行き先のない旅 (32)

ジビエ料理の季節が来て

執筆者:大野ゆり子 2006年1月号
エリア: ヨーロッパ

 空気が深々と冷え込みだすと、「ジビエ(Gibier)」の季節の到来である。ここのところ日本でもブームになり、専門店も増えているというジビエ料理。ヨーロッパでは、十月中旬ごろから翌年二月中ごろまで、山バト、キジ、マガモといった鳥類や、野ウサギ、シカ、イノシシなどの野生動物の狩猟が解禁になり、ジビエと総称されるこれら鳥獣の肉が「旬」の食材としてメニューに並ぶようになる。 ベルギーはフランスと並んで、実は知る人ぞ知る「ジビエ料理大国」。新米や新茶など初物を楽しむ習慣がある日本と違い、普段のこちらの食生活は、それほど季節に敏感でない。時差の関係で、「世界で一番早く日本で解禁」と話題だったボジョレ・ヌーボーも、解禁当日に親しいフランス人とベルギー人を家に招いて振舞ってみたが、反応は普通に素通り。気がつかなかったのかと思い「今年のボジョレなの」「初物なの」「今日解禁だったの」と畳み掛けてみたが、反応は変わらず。彼らにとっては、初物より普段飲めない「日本酒」の方が、人気が高かった。

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執筆者プロフィール
大野ゆり子(おおのゆりこ) エッセイスト。上智大学卒業。独カールスルーエ大学で修士号取得(美術史、ドイツ現代史)。読売新聞記者、新潮社編集者として「フォーサイト」創刊に立ち会ったのち、指揮者大野和士氏と結婚。クロアチア、イタリア、ドイツ、ベルギー、フランスの各国で生活し、現在、ブリュッセルとバルセロナに拠点を置く。
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