クオ・ヴァディス きみはどこへいくのか?

ハルビンの岸を洗った秘密主義の水

執筆者:徳岡孝夫 2006年1月号
エリア: ヨーロッパ アジア

 チェルノブイリ原発の大事故(一九八六年四月)を思い出す。ソ連社会主義帝国の末期で、モスクワは例により貝のように黙っていた。オーストリアや北欧の人々が雨や大気中の放射能が異常に高いのを知って騒ぎ出し、二日後にやっとソ連は原発の爆発事故を認めた。 言論の自由を認めず、情報を政府の手で統制する社会主義の弱点は、事故や災害時に現われる。私がこれを書いている時点で、猛毒のニトロベンゼンは魚を殺しながら松花江を流れ下っている。ハルビン(人口三百八十万)は通り過ぎたが、沿岸各地でパニックが起きている。理由は中国石油天然ガス集団(ペトロチャイナ)系の吉林工場の大爆発を、中国政府が十日間も隠したからである。

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