中東―危機の震源を読む (14)

シャロンを「悪魔化」したアラブ・パレスチナの思考停止

執筆者:池内恵 2006年2月号
エリア: 中東

 イスラエルのシャロン首相が一月四日の夜に脳卒中の発作を起こしてエルサレムの病院に搬入された。この時の各国メディアの扱いや各国首脳の反応は、シャロンがその政治生活の最終段階でついに絶頂期に達していたことを印象づけた。BBCやCNNはシャロンの入院するエルサレムのハダーサ病院前に常駐して細かな動きを実況中継し、各国首脳が和平への貢献を最大級に称える見舞いの声明を次々に出した。 シャロンはイスラエルとパレスチナの紛争のもっとも苛烈な部分を体現してきた人物である。それゆえに政治家としての経歴には傷も多い。最先端のエリートというよりは、「冷や飯を喰っていた」時期も長い。一九八二年のイスラエルによるレバノン侵攻が、それまでの四次の中東戦争とは異なる「不必要の戦争」との批判を受けて国論を二分した時には、国防相として非難の矢面に立った。その時、レバノンのキリスト教徒民兵「ファランジスト」が行なったサブラ、シャティーラ両難民キャンプでのパレスチナ人大量殺害への間接的な責任を問われて国防相を辞任し、政治家としての将来を失ったと一時は思われていた。だが、ネタニヤフやバラクなど先を越していった“切れ者”たちが次々に和平交渉とイスラエル内の政争で泥沼に足を取られていくのを待ち続け、二〇〇一年、ついに首相の座についた。

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執筆者プロフィール
池内恵(いけうちさとし) 東京大学先端科学技術研究センター グローバルセキュリティ・宗教分野教授。1973年生まれ。東京大学大学院総合文化研究科地域文化研究専攻博士課程単位取得退学。日本貿易振興機構アジア経済研究所研究員、国際日本文化研究センター准教授を経て、2008年10月より東京大学先端科学技術研究センター准教授、2018年10月より現職。著書に『現代アラブの社会思想』(講談社現代新書、2002年大佛次郎論壇賞)、『イスラーム世界の論じ方』(中央公論新社、2009年サントリー学芸賞)、『イスラーム国の衝撃』(文春新書)、『【中東大混迷を解く】 サイクス=ピコ協定 百年の呪縛』 (新潮選書)、 本誌連載をまとめた『中東 危機の震源を読む』(同)などがある。個人ブログ「中東・イスラーム学の風姿花伝」(http://ikeuchisatoshi.com/)。
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