中東―危機の震源を読む (15)

風刺画問題が炙り出した西欧とイスラームの「対立軸」

執筆者:池内恵 2006年3月号
エリア: ヨーロッパ 中東

 いわゆる「ムハンマド風刺画問題」によって高まった摩擦は、きわめて危険な水準に達している。EU(欧州連合)諸国は沈静化の道を探っているが、イスラーム諸国の平均的な市民が満足できるような決着法は、超法規的措置でもとらない限り実現不可能である。もし風刺画家や新聞社の関係者らに危害が加えられることがあれば、将来にわたる決定的亀裂を残しかねない。外交辞令をふりまいてしのぎ、時間がたって他のことに関心が移るのを待つしかない。 発端はデンマークの有力紙『ユランズ・ポステン』が二〇〇五年九月三十日に、イスラーム諸国の社会や政治情勢を風刺する十二枚の戯画を掲載したことである。特に、この中の一枚で、ムハンマドと見られる男の頭にあしらった爆弾の導火線に火がついているのが問題となった。

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執筆者プロフィール
池内恵(いけうちさとし) 東京大学先端科学技術研究センター グローバルセキュリティ・宗教分野教授。1973年生まれ。東京大学大学院総合文化研究科地域文化研究専攻博士課程単位取得退学。日本貿易振興機構アジア経済研究所研究員、国際日本文化研究センター准教授を経て、2008年10月より東京大学先端科学技術研究センター准教授、2018年10月より現職。著書に『現代アラブの社会思想』(講談社現代新書、2002年大佛次郎論壇賞)、『イスラーム世界の論じ方』(中央公論新社、2009年サントリー学芸賞)、『イスラーム国の衝撃』(文春新書)、『【中東大混迷を解く】 サイクス=ピコ協定 百年の呪縛』 (新潮選書)、 本誌連載をまとめた『中東 危機の震源を読む』(同)などがある。個人ブログ「中東・イスラーム学の風姿花伝」(http://ikeuchisatoshi.com/)。
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