メルケルも「打つ手なし」のウクライナ危機

佐藤伸行
執筆者:佐藤伸行 2014年3月7日
エリア: ヨーロッパ ロシア

 やはりこれは1938年に似ているのではないか。

 ウクライナ南部クリミア半島に軍事介入したロシアに対する欧米の柔弱な態度は、ヒトラーに対する悪名高き英仏の宥和政策を彷彿とさせる。ロシアのプーチン大統領は欧米が応手に窮しているとみてとるや、クリミア半島のロシア編入を窺うまで一気に手順を進めた形だ。雲行きからすれば、プーチンはロシア系住民の多いウクライナ東部の掌握も狙っていると想定した方がいい。

 

クリミアとズデーテン

 ヒラリー・クリントン前米国務長官はプーチンのやり口をナチス・ドイツ総統アドルフ・ヒトラーになぞらえた。ウクライナのロシア系住民の保護を名目にクリミア半島に介入したプーチンは、チェコスロバキア・ズデーテン地方のドイツ系住民保護を大義名分に英仏を恫喝し、戦わずしてズデーテン地方を手に入れ、最終的にはチェコを呑み込むことに成功したヒトラーを模範としているかのようだ。

 ミュンヘン会談から“凱旋帰国”したチェンバレン英首相は飛行場に出迎えた群衆を前に、ヒトラーから不戦の誓いを取り付けた紙切れを手に掲げ、「われらが平和の時代の証」とばかりにひらひらと振って見せたそうだが、現代のイギリスの国家安全保障顧問は「ロシアへの金融制裁を絶対支持するな」と書かれた、これも平和の証である内部文書を持っているところをビデオに撮られ、ばつの悪い思いをしている。

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執筆者プロフィール
佐藤伸行
佐藤伸行 追手門学院大学経済学部教授。1960年山形県生れ。85年早稲田大学卒業後、時事通信社入社。90年代はハンブルク支局、ベルリン支局でドイツ統一プロセスとその後のドイツ情勢をカバー。98年から2003年までウィーン支局で旧ユーゴスラビア民族紛争など東欧問題を取材した。06年から09年までワシントン支局勤務を経て編集委員を務め退職。15年より現職。著書に『世界最強の女帝 メルケルの謎』(文春新書)。
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