饗宴外交の舞台裏
饗宴外交の舞台裏(98)

「BSE問題」渦中の英国で魚料理の地位を高めた一品

西川恵
執筆者:西川恵 2006年3月号
カテゴリ: 国際
エリア: ヨーロッパ

 日本政府は一月二十日、米国産牛肉にBSE(牛海綿状脳症)の病原体が蓄積しやすい特定危険部位の脊柱が混入していたとして、昨年末に再開したばかりの輸入を再び禁止した。実はここ十年、BSEは外交の饗宴の場にも大きな影響を与えてきた。 一国としては最大の十八万頭を超える牛がBSEを発症した英国は、一九九六年以来、欧州連合(EU)諸国への牛肉の輸出が禁止されている。EUは近く解禁予定だが、バッキンガム宮殿、ダウニング十番地(首相官邸)いずれも、外国首脳を迎えた饗宴では牛肉料理を避け、リスクの少ない子羊を供するようになった。ただもう一点、見落とせないのは魚料理が主菜(メイン)として認知されるようになったことだ。 以前は魚料理は前菜にとどまり、主菜はあくまで肉料理だった。しかしBSEに汚染された肉骨粉を飼料とする食肉の大量生産方式への反省は、健康志向の追い風もあったが、それまでの魚料理への認識を大きく変えた。そのイメージ転換の契機となったのが、九九年七月、イタリアのマッシモ・ダレーマ首相を迎えてブレア英首相が催した首相官邸の昼食会といわれる。 このとき料理を任されたのはロンドンの有名レストラン「フィフティーン」のオーナーシェフ、ジェイミー・オリバー氏だった。九〇年代半ば以降、「英国に美食あり」を世界に認識させた英食文化の革新を先導してきた当時二十代半ばの若者。いまでも料理本は出せば売れ、プロデュースした食器や調理器も引っ張りだこというカリスマ・シェフ。

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執筆者プロフィール
西川恵
西川恵 毎日新聞客員編集委員。1947年長崎県生れ。テヘラン、パリ、ローマの各支局長、外信部長、論説委員を経て、今年3月まで専門編集委員。著書に『エリゼ宮の食卓』(新潮社、サントリー学芸賞)、本誌連載から生れた『ワインと外交』(新潮新書)、『国際政治のゼロ年代』(毎日新聞社)、訳書に『超大国アメリカの文化力』(岩波書店、共訳)などがある。2009年、フランス国家功労勲章シュヴァリエ受章。本誌連載に加筆した最新刊『饗宴外交 ワインと料理で世界はまわる』(世界文化社)が発売中。
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