中東―危機の震源を読む
中東―危機の震源を読む(17)

改宗者裁判が問う「自由」と「寛容」の意味

池内恵
執筆者:池内恵 2006年5月号
カテゴリ: 国際
エリア: ヨーロッパ 中東

 アフガニスタンと欧米諸国の間で紛糾していた「改宗者問題」は、三月二十九日、イスラーム教からキリスト教への改宗を撤回しなかったアフガニスタン人がイタリアに亡命することで一応の幕引きがなされた。 亡命したのはアブドル・ラフマーンという男性で四十一歳とされる。パキスタンでアフガニスタン難民救助のための医療援助団体のもとで働いていた一九九〇年前後にキリスト教に改宗したという。九〇年代の多くをドイツに暮らし、二〇〇二年にアフガニスタンに帰国して娘をドイツに連れ帰ろうとしたところ、親族から「キリスト教に改宗した男」には親権がないとの申し立てがなされた。本人が改宗の事実を認めたために逮捕され、「イスラーム教に対する攻撃」という重大犯罪として治安裁判所への訴追がなされた。改宗を撤回せず死刑判決の見通しとなったところで国際的に報じられ、ローマ法皇の嘆願や米国、イタリア、ドイツといった各国政府からの批判が相次ぎ、急転直下の灰色決着となった。 イスラーム教は改宗を絶対的に禁じており、認定手順や猶予期間に関して細部で諸説はあるものの、イスラーム教徒の成人男性がこれに反すれば死刑に処すというのが基本的な理解である(女性の場合はまず後見・監督者に、悔い改めさせる努力義務が生じるようである)。

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執筆者プロフィール
池内恵
池内恵 東京大学先端科学技術研究センター准教授。1973年生れ。東京大学大学院総合文化研究科地域文化研究専攻博士課程単位取得退学。日本貿易振興機構アジア経済研究所研究員、国際日本文化研究センター准教授を経て、2008年10月より現職。著書に『現代アラブの社会思想』(講談社現代新書、2002年大佛次郎論壇賞)、『イスラーム世界の論じ方』(中央公論新社、2009年サントリー学芸賞)、『イスラーム国の衝撃』(文春新書)、本誌連載をまとめた『中東 危機の震源を読む』などがある。個人ブログ「中東・イスラーム学の風姿花伝」(http://ikeuchisatoshi.com/)。
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